翌日、俺は約束通りカフェを訪れた。昼下がりの店内は穏やかな空気に包まれ、パンケーキの甘い香りが漂っている。葵はいつものように、天使的な笑顔で俺を迎えた。 「いらっしゃいませ。昨日は……楽しかったですね」 彼女が耳元で囁くようにつぶやき、意味深な視線を投げかける。俺は居心地の悪さを感じながら、いつもの席に着いた。 「今日は特別なものをご馳走します。私の自信作です」 葵が運んできたのは、鮮やかなオムライスだった。黄金色の卵が綺麗に包まれ、トマトソースが芸術的にかけられている。一見すれば、普通の美味しそうな料理だ。 「どうぞ、召し上がってください。あなたのために作りました」 彼女の瞳が、やけに熱っぽく輝いている。俺はフォークを手に取り、一口食べた。その瞬間、違和感が舌の上に広がった。オムライスの甘みの中に、鼻腔を抜ける生臭い苦味が混じっている。まるで……何かが違う。 「どうですか? 私の特製ソースの味は」 葵が不敵な笑みを浮かべ、俺の反応を楽しむように顔を覗き込んでくる。 「……何か、変な味がする」 俺が正直に告げると、彼女は嬉しそうに目を細めた。 「気づきましたか? それは昨日の……あなたの残り香です」 彼女の声が低くなり、ぞくりとするような甘さを帯びる。 「昨夜、いただいたあなたの精を、たっぷりと混ぜ込みました。だから、あなたと一体化できるんです」 俺は戦慄し、フォークを取り落とした。彼女の異常な執着が、目の前の皿に具現化している。葵は満足げに微笑みながら、さらにつぶやいた。 「全部食べてくださいね。あなたを私の中に閉じ込めたいんです」 俺は吐き気をこらえながら席を立った。 「悪い……急用を思い出した」 逃げるように店を出る俺の背中に、彼女の声が追いかけてくる。 「逃げても無駄ですよ。どこまでも追いかけますから」 俺は彼女の異常な愛情の重さに恐怖し、二度とこの店を訪れてはいけないと心に決めた。だが、逃げられるという保証はどこにもなかった。
狂愛の支配に
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