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女優の仮面の下へ

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7章 / 全10

金曜の舞台を翌日に控えた午後、黒木が再びアパートを訪れた。今度は二人の男を連れている。 「最後通告だ」 黒木は怜を突き飛ばし、部屋へ上がり込んだ。紗英がソファから立ち上がる。 「黒木さん……」 「紗英様、ご実家からの決定です。今夜、マンションへ戻っていただきます。明日の舞台の準備は本来の環境で整えるべきだ」 黒木の視線が怜に向けられる。 「君には退出していただく。拒否すれば、大学への圧力も辞さない」 二人の男が怜の両脇に立った。黒木は勝ち誇った表情で怜を見下ろした。 「君ごときが抵抗できると思わないことだ。私の背後には紗英様のご実家がある。あらゆる手段で君の未来を閉ざせる」 紗英が前へ出ようとしたが、男の一人が彼女の腕を掴んだ。 「どうぞ。好きにすればいい」 怜の静かな声に、黒木は眉をひそめた。 「……何?」 「警察を呼んでください。大学にも連絡してください。あなたができるのは、それくらいでしょう」 怜は黒木の目を真っ直ぐに見た。 「あなたは紗英さんの実家に依存しているだけだ。彼女を管理することでしか、自分の価値を確認できない。支配される彼女を演出することで、自分の虚栄心を満たしている」 黒木の表情が強張った。 「……無礼な。私は紗英様のために——」 「自分のためにでしょう。紗英さんが自分の意志で動き始めたら、あなたの仕事は終わる。彼女が自立したら、あなたが依存すべき場所を失う」 怜は一歩踏み出した。黒木が無意識に後ずさる。 「あなたは弱い。紗英さんを人形にすることでしか、自分の強さを確認できない。実家の威光を借りて、学生一人脅せない。それがあなたの正体だ」 黒木の顔から血の気が引いていった。連れてきた二人の男も、怜の言葉に気圧されたように動きを止めている。 「紗英さんは、あなたの管理から逃れたくてここに来た。彼女が選んだのは、この場所だ。彼女の意志を尊重できないなら、あなたは彼女のために何もできない」 「こ、この学生如きが……」 「出て行ってください」 怜の声は静かだったが、力強かった。黒木は唇を震わせ、何かを言いかけたが、言葉にならなかった。男たちに目配せをし、逃げるように部屋を出て行った。ドアが閉まると、紗英が怜に駆け寄った。 「怜君……」 彼女の瞳は潤んでいた。 「あんな風に、誰かと向き合ったことなかった。怖くなかったの?」 「あなたを守りたかった。それだけです」 紗英は彼の胸に顔を埋めた。 「私、あなたを選んでよかった。あなたとなら、自分の足で立てる気がする」 怜は彼女を抱きしめた。 「明日の舞台、成功させてください。本当のあなたを見せて」 紗英は頷き、彼の顔を見上げた。 「……うん。私、演じる。役じゃない私自身を」 その夜、二人は言葉少なに肌を重ねた。守り合う温もりの中で、紗英は初めて明日の舞台を待ちわびる自分に気づいた。

7章 / 全10

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