夜が深まり、見張り台の兵士たちは焚き火のそばで泥のように眠っていた。酒盛りの跡が散乱し、空になった酒瓶や食べ散らかされた骨が無造作に転がっている。直樹は鉄格子の隙間から細い竹筒を伸ばし、鍵を引き寄せた。薬剤師としての知識を活かした簡単な仕掛けだが、警備の油断を突くには十分だった。カチャリと鍵が外れる小さな音が響く。直樹は息を殺して鉄の扉を押し開けた。錆びた蝶番が軋む音に、心臓が早鐘を打つ。しかし酔い潰れた兵士たちは誰も気づかない。彼は忍び足で地下牢を抜け出し、冷たい夜風が吹く外へと出た。 「まずは見張り台だ」 直樹は懐から毒を染み込ませた布を取り出した。月明かりの下、青白く光る粘液が復讐の道具となっていた。毒草と毒虫を丁寧にすり潰し、調合した神経毒。少量なら痺れを引き起こし、大量なら呼吸を停止させる猛毒だ。見張り台の隅には水袋と酒瓶が無造作に置かれている。昼間の作業で兵士たちが飲み残したものだ。直樹は毒を一滴ずつ、慎重に混入させていった。粘り気のある液体が水と酒に溶け込み、見た目には何も変わらない。 「これでいい」 全ての飲み物に毒を混ぜ終えた直樹は、再び影に身を潜めた。夜明けと共に兵士たちが目覚め、毒入りの水や酒を飲めば、徐々に痺れが広がり、最後には息ができなくなる。脱出する時間は十分にある。 「おい、水くれ。喉が渇いた」 朝になり、一人の兵士が目をこすりながら水袋を手に取った。直樹は息を殺して様子を伺う。 「ん、何だこの味……」 兵士が水を飲んだ直後、眉をひそめた。そして次の瞬間、苦悶の声を上げて喉を押さえ、床に倒れ込んだ。 「ぐっ、あ、あぐっ……」 「どうした!? おい!」 駆け寄った別の兵士も、酒瓶を口にして同様に倒れた。 「うぐっ、息が、息ができねぇ……」 次々と兵士たちが倒れていく。痺れが全身を侵し、呼吸麻痺に陥っていくのだ。直樹は混乱に乗じて見張り台を抜け出した。 「莉音、待ってろ」 首領の屋敷へ向かう直樹の背中で、復讐の炎が燃え上がっていた。毒は効いている。あとは愛する女を見つけ出すだけだ。
毒の華
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