エラベノベル堂

祖父の書斎で見つけた秘密

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4章 / 全10

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遥華は次の一冊を開きかけて、ふと動きを止めた。紙の端に、細い鉛筆の線が見えたからだった。最初は擦れた汚れかと思ったが、よく見るとそれはただの線ではない。余白に沿って、短い言葉が何度も書き込まれている。 ここで少し急ぐ。間を詰めすぎる。相手の沈黙が効いている。 遥華は息を飲んだ。本文を読むだけでは気づかなかった視点が、そこには静かに差し込まれている。祖父の筆跡は几帳面で、まるで読書の記録を整えるみたいに、端正だった。別のページをめくると、今度は登場人物の心の動きに丸が打たれ、その横に、よい、とだけあった。 遥華はしばらく、その一語を見つめた。よい。あまりに簡素なのに、そこには甘いとか過激だとか、そういう表面的な反応が入る隙がない。ただ、構成がどう働いているかを見ている目だった。場面の勢いに流されず、感情の揺れそのものを確かめるような見方だ。 本のあいだに挟まった付箋にも、細かな印が残っていた。ここは言い換えがうまい。ここの溜めは長いが、効く。遥華は指先で付箋の角をなぞり、思わず目を瞬いた。祖父は、ただ隠していたのではない。眺めて、比べて、確かめていたのだ。自分が手にした物語を、雑に消費するのではなく、ひとつずつ味わっていたのだと分かる。 胸の奥にあった驚きが、少しずつ形を変えた。厳しい人だったからこそ、こんな細部にまで目を凝らしていたのかもしれない。遥華が知っていた祖父は、いつも正しいものを選び、無駄を嫌う人だった。その真面目さが、こんなふうに本の中のわずかな呼吸まで追っていたとしたら、なんだか可笑しくて、それ以上に妙に尊い。 遥華は本を閉じ、そっと胸元に抱えた。積み上げられた背表紙は、もう単なる隠し棚には見えない。祖父がひとりで向き合っていた時間の重さが、そこにそのまま沈んでいる気がした。知らない世界をのぞいたつもりでいたのに、見えてきたのは、思っていたよりずっと真面目な眼差しだった。 遥華は机の上に視線を落とし、次の頁を開く手を、今度は少しだけ丁寧に置いた。

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