エラベノベル堂

祖父の書斎で見つけた秘密

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5章 / 全10

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遥華は頁を開いたまま、しばらく目を落とした。祖父の書き込みを見つけたときの驚きはまだ胸の奥に残っているのに、今はそれよりも、そこに向けられていた視線の細やかさが気になって仕方がなかった。言葉はただ強いだけではない。人は相手を求めながら、同時に怖がり、確かめ、少しずつ距離を詰める。その揺れが、こんなにも面倒で、だからこそ面白いのだと、ページを追うほどに分かってくる。 遥華は自分の指先を見た。誰かの気配をこんなふうに丁寧に読み取ったことが、これまであっただろうか。女子校で過ごしてきた日々は、落ち着いていて、守られていて、余計な波風が立たないのが当たり前だった。恋愛話だって、友人同士で噂することはあっても、自分の身に引き寄せて考えたことはほとんどない。だからこそ、本の中で交わされる沈黙やためらいが、遠い国の習慣みたいに見えていたのだ。 けれど、読み進めるうちに、それはまったく別のものではないと気づき始める。相手の言葉を受け止めること、黙っている相手の気持ちを想像すること、踏み込みすぎずに気配を残すこと。どれも、知らないふりをしていただけで、日常の中にあったはずのものだった。遥華はそれを上手に扱ったことがない。だから面白いし、難しい。自分にはまだ、心を通わせるということの輪郭すら曖昧なのだと思い知らされる。 机に並ぶ本を見渡す。祖父の棚は、ただの秘密ではなく、知らない感情へ続く通路みたいだった。遥華はその奥をのぞくたび、自分の世界が思ったより狭かったのだと少しずつ知っていく。書かれているのは過激な場面ではなく、人と人が近づこうとして失敗し、それでも手を伸ばす瞬間ばかりなのに、胸の奥は何度もざわついた。 こんなふうに誰かを読むことがあるのか。こんなふうに距離を測ることがあるのか。遥華は頁の角を押さえたまま、祖父が見ていた景色の端を、ようやく自分でも掴みかけていた。

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