エラベノベル堂

祖父の書斎で見つけた秘密

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6章 / 全10

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遥華は本を閉じかけて、ふと机の端に残された封筒に目を留めた。遺品を分けるために寄せていた紙束の中に、いつの間にか紛れ込んでいたらしい。祖父の几帳面な字で宛名は書かれているが、差出人の欄は空白だった。封はすでに切られており、中からは薄い便箋の半分と、折りたたまれたメモが一枚こぼれ落ちる。 便箋には、書店名とも、人名ともつかない控えめな言葉が並んでいた。新刊の状態、装丁の違い、紙の匂いまで細かく触れた文面は、ただの購入記録には見えない。ここまで整っているのに、どこか急いだ気配がある。遥華は息を止めた。祖父が蔵書をどこから集めたのか、その輪郭が少しだけ見えた気がしたからだ。 メモには、短い符号のような文字列と、日付だけが残っている。記憶に留めるための印だろうか。続く一文は途中で千切れていて、今度は誰にも見せないこと、次回は静かな席で、という言葉だけが読み取れた。遥華はその断片を指で押さえたまま、しばらく動けなかった。誰にも見せない。静かな席。そこにあるのは、ただの趣味の記録ではない。 さらにもう一枚、折り目の深い紙が見つかる。文字はかすれ、端が擦り切れていたが、そこには同じ筆跡で、感想を交わしたことへの礼と、読後に残った気配を確かめるような一文が書かれていた。遥華は顔を上げ、書斎の静けさを見渡した。祖父はひとりで読んでいたのではない。誰かと本を持ち寄り、感想を交わし、しかもそれを人目から隠していたのだ。 胸の奥が、驚きでひやりとした。厳格で、無駄を嫌い、家の中でも自分の規律を崩さなかった祖父が、こんな秘密めいた場を作っていたなんて。知らない世界の扉が、またひとつ開いた気がする。遥華は便箋の切れ端とメモを並べ、祖父の読書が一人きりの癖ではなかったことを、静かに受け止めた。

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