遥華は便箋の切れ端を指先でそっと押さえたまま、しばらく息をするのも忘れていた。誰かと本を持ち寄っていた。感想を交わしていた。それだけでも十分に意外だったのに、相手は祖父の部屋の外にいる遠い誰かではなく、この家の空気を知っているような、もっと身近な存在だったらしい。文字の端々ににじむ親しさが、妙に生々しかった。 続きの文字を探すように、遥華はメモを裏返した。そこには符号めいた数字と、控えめな筆跡で、次の席順を思わせる短い記号が並んでいる。どうやらただの書店とのやり取りではない。書き残し方が、約束の確認に似ていた。祖父はあの几帳面さで、秘密の場の段取りまで整えていたのだと思うと、遥華はうまく笑えなかった。 書斎の静けさの中で、祖父の友人たちの顔が浮かぶ。家で見たことのある人もいる。玄関先で会えば丁寧に会釈をし、庭の話や時事の話をする、あの落ち着いた大人たちだ。その人たちが、こんなふうに頁の向こう側を共有していたのかと思うと、遥華の知らない社交の輪が、急に輪郭を持ちはじめた。趣味はひそやかなものではあるのに、そこには確かな礼儀があり、暗黙の了解があり、互いの好みを尊重する空気があった。 自分の知っている祖父は、家では厳しく、少しも隙を見せない人だった。けれどこの手紙の断片は、そんな印象を静かに裏切る。誰かと目配せし、感想を交わし、また次へつなげる。遥華にはまだその全体像が見えない。それでも、祖父がひとりで閉じこもっていたわけではないと分かっただけで、胸の奥の驚きは別の熱を帯びた。 机の上には、便箋の半分と、読み終えた本と、折り畳まれたメモが並んでいる。遥華はそれらを順に見比べ、祖父の秘密が思っていたよりずっと人とつながっていたことを噛みしめた。知らない大人の世界は、ただ隠されているだけではなく、静かに受け継がれていたのかもしれない。遥華はそっとメモを重ね、次の断片を探すように本棚へ視線を移した。
祖父の書斎で見つけた秘密
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