エラベノベル堂

祖父の書斎で見つけた秘密

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8章 / 全10

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遥華は重ねたメモを見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。祖父の秘密が、ただ隠された本の束ではなく、誰かと確かめ合うための時間まで含んでいたと知ってしまうと、胸の中で何かが静かに組み替わる。厳格で、隙がなくて、家ではいつも正しい側に立っていた人。その輪郭が、少しずつ別の色を帯びていく。 遥華は机の端に置いた本を開き直した。さっきまでなら、言葉の激しさに目を奪われていたかもしれない。けれど今は違う。登場人物が何を欲し、どこでためらい、なぜ踏み込めずにいるのか。その一つひとつが、祖父の書き込みと重なって見えた。読むたびに、ただの刺激ではなく、相手を知ろうとする執念のようなものが伝わってくる。 自分はもう、内容を真剣に語れるのだと思った。面白かった、熱かった、そんな曖昧な感想では終わらない。どの場面で呼吸が変わり、どの沈黙が効き、どの言い回しが心の扉を少しだけ開くのか。そんなことを、遥華は自然に考えている。祖父の本棚の前で立ち尽くしていた頃の自分とは、確かに違っていた。 祖父の趣味を、もう単純に奇妙だとも、恥ずかしいとも言えなかった。むしろ、ここまで真面目に向き合っていたのなら、作品そのものを見ないまま否定するほうが失礼なのだろう。遥華はそう思い、背表紙の並びをゆっくり指でなぞった。好きだからこそ隠したのか、隠しながらも誰かと分かち合っていたのか。その答えはまだ全部は見えない。けれど、理解しようとすることはできる。 本を閉じる音が、静かな書斎に小さく落ちた。遥華は深く息を吸い、祖父の残した棚を見上げる。知らなかった人のようでいて、今は少しだけ近い。そう感じた瞬間、遠くで床が鳴った気がして、遥華は反射的に手元を整えた。

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