遥華は反射的に本を閉じ、机の上を見下ろした。さっきまで開いていた頁の隅に、古びた鍵のついた小さな金属箱が半分隠れている。棚の奥へ手を伸ばしたときに触れたものだろう。祖父の几帳面さからすれば、ただ置き忘れたとは考えにくい。遥華は息をひそめて、その箱を両手で持ち上げた。 重さは意外と軽い。鍵はすでにかかっておらず、指先で留め具を起こすと、乾いた音とともに蓋が開いた。中に入っていたのは、束ねられた紙切れと、端の折れたノートの切れ端だった。遥華は一枚目をそっと取り出して、思わず眉を寄せる。そこにあるのは、感想文と呼ぶにはあまりに真面目で、けれど内容はひどく滑稽だった。 この場面で急に背筋を伸ばしすぎたせいで、椅子から落ちそうになった。相手の沈黙に耐えきれず、こちらが先に笑った。 祖父の筆跡で、そんなことが淡々と記されている。遥華は一拍置いてから、吹き出した。あの厳しい顔で、こんな失敗をしていたのかと思うと、堪えようとしても無理だった。続きには、気合を入れすぎて本を持つ手が汗ばみ、頁をめくるタイミングを誤ったせいで相手の視線まで外してしまったこと、真面目に受け取られすぎて場の空気が妙にかたくなったことが、実に大げさに、しかも自省たっぷりに書かれていた。 失敗談はそれだけではない。別の紙には、気取って難しい言い回しを使ったら、かえって笑われた、とあった。遥華は机に片手をつき、肩を震わせた。祖父が、こんなふうにうまくいかず、見栄も張り、少し空回りしながら本を読んでいたなんて。家で見せていたあの完璧な姿は、どうやらこの箱の中ではずいぶんとほぐれていたらしい。 最後の一枚には、さらに短く、次はもっと自然体で臨むこと、感想は背伸びせず率直に、と走り書きされていた。遥華はそれを読んで、また笑った。厳格な祖父が、若い頃にはこんなふうに恥をかきながら、少しずつ自分の読み方を作っていたのだ。秘密の趣味は、ただ隠されていたのではなく、失敗ごと積み重ねられていたのだと知ると、胸の奥が妙に温かくなる。 遥華は紙束を元通りにそろえ、箱のふたを静かに閉めた。祖父の人間味は、予想していたよりずっと大きく、ずっと可笑しい。笑いをこらえながら、遥華は金属箱を机の隅へ戻す。その拍子に、手元の本の表紙がかすかにずれた。
祖父の書斎で見つけた秘密
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