エラベノベル堂

舞姫、盤上を制す

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9章 / 全10

当日の朝、真人は華凛を抱きしめたまま目を覚ました。今日は藤代家の親族会議——九条も出席する重要な局面だ。 「真人さん……」 華凛が不安げに瞳を開く。 「大丈夫だ。すべては計画通りに進む」 真人は彼女の額に口付け、静かに告げた。 「今日、お前は何も言わなくていい。ただ見ていてくれ」 藤代家の広間には、親族十数名が集まっていた。祖母を中心に、両親、叔父叔母、そして九条雅之。真人は華凛と共に末席に座り、盤面を眺めるように状況を観察した。 「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」 九条が立ち上がり、丁寧な挨拶を始めた。 「私と華凛さんの婚約につきまして、正式に日程を決定したく——」 「待ってくれ」 真人が声を上げた。広間が静まり返る。九条が眉をひそめ、真人を見た。 「何か?」 「将棋部の学生さんでしたね。今日は静かにしているのがよろしいのでは?」 「九条さん、あなたは華凛さんを幸せにできるとおっしゃいましたね。ではお聞きします。彼女の踊りを、実際に見たことは?」 九条の表情がわずかに曇った。 「……もちろんです。藤代の舞踊は素晴らしい」 「いえ、彼女の踊りです。彼女が心血を注いでいる舞台を、一度でも見たことがあるかと聞いています」 九条は答えに詰まった。周囲の視線が彼に集まる。 「そ、そんなことより、家の後継者として——」 「家の後継者、ですか。あなたが求めているのは、藤代家の蔵にある古文書でしょう」 真人の言葉に、九条の顔色が変わった。 「なっ……!」 「九条さん、あなたの古美術品を通じた裏金の流れ、興味深い資料を拝見しましたよ」 真人は晃から受け取った情報を基に、淡々と続けた。 「華凛さんは家の看板だ。私が管理すれば、金づるとして一生使える——そうお考えでしたか?」 九条が顔を真っ赤にした。 「き、貴様っ! 何を根拠に——」 「根拠? ではお聞きします。あなたが過去に婚約破棄させた三つの家、すべてに共通して失踪した古文書や美術品。偶然ですか?」 広間がざわめき始めた。九条が声を荒げた。 「ふざけるな! そんなデタラメを! 私は華凛さんを愛している! 彼女は私の——私の所有物だ!」 「……所有物、とおっしゃいましたか」 真人が静かに問い返すと、九条ははっと口を覆った。だが遅かった。広間の空気が凍りつく。華凛の母親が悲鳴のような声を上げた。 「所有物ですって!?」 祖母が静かに、しかし威厳を持って口を開いた。 「九条さん、お引き取りください」 真人は心の中で駒を動かした——王手、だ。

9章 / 全10

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