エラベノベル堂

宿霊の凪

18+ NSFW

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2章 / 全10

自宅に戻った凪は、玄関のドアを開けた瞬間、空気が変わったことに気づいた。 「ただいま……」 返事はない。奏人はまだ帰っていない。いつもなら静かな我が家が、今夜はどこか違って感じられた。壁の向こう、床の下、天井の裏——見えないはずの空間に、無数の視線を感じる。リビングに入り、電気をつける。明かりが灯った瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。薄い影が揺らめき、すぐに闇へと溶け込む。 「……気のせい、だよね」 凪は首を振り、キッチンへ向かう。コップに水を注ごうとした時、背後からじっと見られている感覚に襲われた。鳥肌が背中を這い上がる。振り返ると、窓ガラスに映る自分の姿の背後に、数人の影が重なって見えた。 「っ……!」 思わず水をこぼしそうになる。 「見えるのね、あなた」 しわがれた女の声が耳元で囁く。凪は悲鳴を上げようとしたが、喉が引きつって声が出ない。 「待っていたわ……私たちの願いを叶えてくれる人を」 部屋の隅、天井の近く、ソファの陰、テレビの脇——次々と姿を現す幽霊たち。男もいれば女もいる。老人もいれば若者もいる。彼らはすべて、凪を欲望に満ちた目で見つめていた。 「な、何なの……これ……」 凪は後ずさり、壁に背を押し付けた。心臓が早鐘を打つ。 「輝、これってどういうこと!?」 体内の輝に問いかけるが、返ってきたのは冷静な声だった。『見えただろう?。契約の代償だ』 「こんなにたくさん……いつからいたの……?」 「ずっとだ。お前たちは気づいていなかっただけだ。今のそなたは、彼らにとって最高の依り代となった』凪の太ももに、見えない手が触れた。 「ひっ……!」 冷たい感触が、ゆっくりと内腿を這い上がる。 「肌、きれいね……」 若い女の幽霊が、凪の頬に指を伸ばした。その指は透けているはずなのに、肌に触れると確かな冷気となって伝わる。 「やめて……見ないで……」 「見ずにはいられないわ。あなたの中にある、あの輝き」 別の幽霊——中年の男が、凪の髪に手を伸ばした。 「妻に似ている……ああ、懐かしい匂いだ」 凪は震えながら目を閉じた。しかし、瞼の裏にも幽霊たちの姿が焼き付いて離れない。『恐怖で逃げるな。彼らはただ、癒やしを求めているだけだ』 「癒やしって……何をすればいいの……?」 「受け入れろ。それが契約の条件だ』見えない指が、ブラウスのボタンに触れた。冷気が服の隙間から入り込み、肌を撫で回す。 「っ……!」 凪は息を呑む。日常が崩壊する恐怖と、体の奥に芽生える奇妙な熱。その二つが混ざり合い、彼女の心を激しく揺さぶった。この家には、自分以外の誰もいないはずなのに——凪は孤独ではなかった。

2章 / 全10

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