エラベノベル堂

舞台の処方箋

18+ NSFW

小説ID: cmolg6arr002m01ocwuqezq7m

7章 / 全10

事後の静寂が地下室を包んでいた。美鈴は悠陽の胸に顔を埋めたまま、荒い呼吸を整えていた。体中に残る快感の余韻が、彼女の思考を溶かしていく。 「……私、あんな声出したことなかった」 美鈴は恥ずかしそうに呟いた。舞台上でどんなに激しい役を演じても、一度もあんな風にはならなかった。 「それがあなたの本当の声です」 悠陽の指が、彼女の汗に濡れた髪を優しく梳いた。 「演じてもいない、飾り気のない、素のままの声」 「あなたが引き出したのよ」 美鈴は悠陽の目を見つめた。薄暗がりの中で、彼の瞳は静かな熱を宿している。 「信太郎さんの言った通りだった。私、本物を知らなかった。舞台上で演じてきた情熱は全部、作り物だった」 涙が再び溢れた。でも今度は悲しみの涙ではない。自分の中に本当の感情が目覚めたことへの、喜びの涙だった。 「悠陽さん、私は……」 言葉に詰まる。自分でも何を言いたいのか分からない。ただ、この人を離したくないという強烈な想いだけが、胸を満たしていた。 「分かっています」 悠陽は美鈴を抱きしめ直した。 「僕も、あなたを離したくない」 美鈴の心臓が跳ねた。都合の良い言葉だと疑う余裕もなかった。この人の言葉は、いつだって真っ直ぐで、何の打算も感じられない。 「これから、どうなるのかしら」 美鈴は不安を口にした。 「舞台に戻れるのかしら。あなたに出会って、演じることが怖くなった。また嘘をつくことになる気がして」 「嘘じゃありません」 悠陽は断言した。 「あなたが演じるのは、これからはあなた自身の人生です。舞台上でも、舞台の外でも」 美鈴は悠陽の言葉を噛み締めた。これからの人生、誰かの役を演じるのではなく、自分自身として生きる。それは今まで考えたこともないことだった。 「あなたがいれば……できるかもしれない」 美鈴は悠陽の首に腕を回し、もう一度唇を重ねた。今度はゆっくりと、確かめるような口づけ。二人の体温が混じり合い、密室の冷気を忘れさせていた。 「ずっと、そばにいて」 美鈴の言葉に、悠陽は静かに微笑んだ。 「ええ、約束します」

7章 / 全10

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