エラベノベル堂

舞台の処方箋

18+ NSFW

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9章 / 全10

事後の余韻が地下室に漂っていた。古びたソファの上、美鈴は悠陽の胸に身を預け、荒い呼吸を整えていた。汗に濡れた髪が額に張り付き、その乱れた姿は舞台上の彼女とは別人のようだった。悠陽の指が、その髪を優しく梳いた。 「美鈴さん……」 美鈴は顔を上げ、潤んだ瞳で彼を見つめた。その瞳には、もう仮面の欠片も残っていなかった。 「これが私の全てよ」 その言葉は、どんな台詞よりも真実味を帯びていた。 「今まで私は、誰かの人生を演じてきた。でも、あなたと出会って、自分自身の人生を初めて生きている気がするの」 悠陽は彼女の髪を撫で続けた。その手つきは優しく、しかし確かな想いを込めていた。 「僕も、あなたと出会って変わりました。人の体調を読むことはできても、人の心は読めないと思っていた。でも、あなたの心は……分かる気がする」 美鈴は悠陽の手に自分の手を重ねた。 「私を離さないで。どこにも行かないで」 「約束します」 悠陽は美鈴を抱きしめ直した。 「僕があなたを守る。舞台の上でも、舞台の外でも。あなたが自分らしく生きられるように」 美鈴の目から涙が溢れた。でもそれは悲しみの涙ではない。自分の中に本当の感情が目覚めたことへの、純粋な喜びの涙だった。 「……ありがとう。あなたに出会えてよかった」 二人は静かに唇を重ねた。それは激しさを欠いた、穏やかで、確かな愛を確認し合う口づけだった。 「これからどうするの?」 悠陽が問いかけた。 「舞台に戻る? それとも……」 「舞台に戻ります」 美鈴は迷いなく答えた。 「でも、これからは演じるんじゃない。私自身として、立つわ」 悠陽は微笑んだ。 「なら、僕が支えます。漢方薬局の仕事をしながら、あなたの舞台を見に行きます」 「毎回?」 「毎回」 美鈴は笑った。それは作り物ではない、心からの笑顔だった。 「信太郎さんに感謝しなきゃね」 「ええ。あの人は、最初から分かっていたんでしょう」 「私たちが出会う運命だったって?」 「いや、私たちがお互いを必要としていたって」 美鈴は悠陽の胸に顔を埋めた。この温もりを、もう二度と離したくなかった。今まで自分を支えてきた舞台という仮面はもういらない。この人のそばにいれば、自分は自分でいられる。 「悠陽さん、愛してる」 その言葉は、役の台詞として何度も口にしてきた。でも今、その言葉は初めて本当の意味を持った。 「僕も、あなたを愛しています」 地下室の静寂の中、二人の心は一つになっていた。外の世界がどんなに変わっても、この絆だけは揺るぎないものとなっていた。

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