文化祭当日の朝、校内は開場前とは思えないほどざわついていた。教室へ向かう廊下には、すでに見物客の足音が混じっている。隼太が屋台の前に立つと、予定していたより早く人の流れができはじめていた。 「隼太、来たよ。準備、もうできてる?」 葵奈は息を弾ませながら駆け寄ってきた。いつもの軽さはあるのに、目だけは真剣だ。隼太は鉄板の火加減を確かめ、うなずく。 「まだ始まったばかりだ。でも、想定より早い」 その言葉が終わる前に、列はさらに伸びた。教室の前にはあっという間に人だかりができ、焼きそばの香りに引かれるように生徒たちが集まってくる。紙皿を渡し、麺をほぐし、ソースを回しかける。その一つ一つに、次の手がすぐ追いつかなければならない。 「次、三人分いける?」 「いける。けど、皿を先に回して」 「了解、任せて」 葵奈は笑顔のまま列へ声をかけ、受け取った注文を軽やかにさばいていく。隼太は焦りで指先が固くなりかけるたび、彼女の明るい声に引き戻された。ひとつ段取りが崩れそうになるたびに、葵奈が視線で合図を送り、言葉で先をつないでくる。 「大丈夫、まだいけるって顔してる」 「してないだろ」 「してる。責任者の顔、ちょっと固いけど」 からかわれて、隼太は思わず息を吐いた。忙しさで頭がいっぱいになると、視界が狭くなる。だが葵奈は、その隣で自然に空気をほどいていく。彼女が笑うだけで、並んだ客の表情まで少し和らいだ。 鉄板の上では麺が勢いよく音を立て、ソースの匂いがさらに広がる。隼太は手順を短く区切り、次に何をするかだけを考えた。そこへ葵奈が紙皿を差し出し、声を弾ませる。 「ほら、今のうち。焦ると味が逃げるよ」 「味は逃がさない」 「その調子」 短いやり取りのたび、二人の動きは噛み合っていく。隼太が焼き上げたものを葵奈が受け取り、葵奈が列をつないだ隙に隼太が次の具を入れる。息をつく暇もないはずなのに、互いの手が見えていれば不思議と崩れない。 ふと顔を上げると、列の先にいた数人が楽しそうにこちらを見ていた。忙しさの中でも、二人が慌てず支え合っていることが伝わったのだろう。隼太はその視線に気づいて、わずかに肩の力を抜く。 「……いけるな」 小さく漏れた声に、葵奈がすぐ反応した。 「うん。ちゃんといけてる」 その笑顔は、ただ明るいだけではなかった。隼太の焦りごと受け止めて、前へ押し出してくれるような、妙な安心があった。隼太は初めて、守る側と支えられる側が、こんなふうに入れ替わってもいいのだと思った。 行列はまだ途切れない。それでも、今の二人なら崩れない。鉄板の熱と人の気配の中で、その確信だけが静かに強くなっていった。
放課後屋台と公開告白
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