エラベノベル堂

放課後屋台と公開告白

全年齢

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8章 / 全10

片付けが一段落したころ、教室の熱気はまだ壁際に残っていた。鉄板はすでに火を落とされ、ソースの甘辛い匂いだけが、少し名残惜しそうに漂っている。隼太はトングを拭きながら、隣で段ボールを畳む葵奈を見た。さっきまで笑っていた顔が、ふと影を落とす。窓の外を見ていた横顔は、いつもの軽さが薄れ、どこか寂しそうだった。隼太の手が止まる。 文化祭が終わるのが惜しいだけではない。そう気づいた瞬間、胸の奥で何かがはっきり形になった。準備の間も、本番の間も、混乱の中でも、葵奈が隣にいるだけで自分は前へ進めた。言葉にしなければ、このまま全部曖昧なまま終わってしまう気がした。 「葵奈」 呼ぶと、彼女は小さく振り向いた。 「なに、そんな顔して」 からかう口調はいつも通りなのに、隼太は逃げなかった。息を整え、まっすぐ彼女を見る。伝えるなら今しかない。そう思った、そのときだった。 天井のスピーカーから、微かな雑音が流れたまま止まらないことに、隼太はようやく気づいた。校内放送のマイクが切れていない。教室の片隅で流れ続けていた二人の声が、そのまま校舎中へ伸びている。 「俺は、お前のことが」 自分の声が、耳の中で大きく跳ねた。隼太は顔から血の気が引くのを感じたが、もう遅い。教室の外で足音が止まり、誰かが息をのむ気配がした。放送越しに聞いていた生徒たちのざわめきが、遠くで一斉に膨らんでいく。 葵奈も一瞬だけ目を見開いた。だが次の瞬間、彼女は肩を震わせ、信じられないほど柔らかく笑った。 「やば。今の、全校に聞こえてる?」 隼太は返事もできない。だが葵奈は、逃げるような笑いではなく、少し照れたように、それでも真っ直ぐこちらを見た。 「なら、ちゃんと言わなきゃ損だよね」 その言葉に、隼太の喉の奥の固さがほどける。まだ校内のどこかで騒ぎが広がっているのがわかるのに、教室の中だけは妙に静かだった。葵奈は少しだけ視線をそらし、それからもう一度、隼太を見上げる。 返事は、すぐには形にならなかった。けれど、二人の間に落ちた沈黙は、もう最初のそれとは違っていた。

8章 / 全10

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