城門の外は、思ったよりも騒がしかった。石畳には荷車の轍が乾いた泥を残し、露店からは焼いた穀物の香ばしい匂いが流れてくる。真由は हुと息を吸い、王宮の静けさとはまるで違う、人の生活の熱に少したじろいだ。追い出された直後のはずなのに、行き交う誰も彼女を特別視しない。そのことが、奇妙に心細くもあった。通りの端では、やせた少年が籠を抱えたまま、年配の男にきびしく叱られている。落とした果実が転がり、少年は拾う手を止めない。真由は思わず足を止めた。あの様子は、王宮で見せられた整った礼儀の世界とは別の、剥き出しの暮らしだった。誰かが生きるために、目の前のものを取りこぼさない。そんな当たり前が、この国の基盤になっているのだと、遅れて胸に落ちる。けれど視線を巡らせるほど、見えるものは美しいだけではなかった。井戸の前で順番を巡って口論する女たち、税を誤魔化したと責められる商人、兵の通り道を避けて脇へ寄る老人。城の中では見えなかった歪みが、ここでは隠れもしない。真由は唇を結び、何度か人に道を尋ねた末、川沿いの簡素な広場へたどり着いた。そこで古びた桶を積み直していた男が、彼女を見て眉を上げる。粗末な外套に土で汚れた手。城なら決して近寄らない類の人間だと、以前の自分なら無意識に線を引いていたかもしれない。だが男は真由が抱える小袋の紐を見て、何も聞かずに荷を支えてくれた。重い桶が傾きかけた瞬間、彼の腕がすっと入り、真由の肩にかかっていた負担が抜ける。礼を言うと、男は短く笑っただけだった。 「倒れたら困るのはあんただけじゃない」 その一言が、胸に妙に残った。城では誰も、真由の手が滑れば誰が困るかを口にしなかった。王女だから大丈夫だと、あるいは王女なのだから当然だと、役目の形ばかりを押しつけられていた。だが今は違う。見知らぬ庶民のひとりが、彼女を特別だから助けたのではなく、倒れれば自分も困るから手を貸した。その当然さが、かえって真由にはまぶしかった。広場の片隅で子どもが笑い、遠くで鐘が鳴る。真由は桶を押さえる男の手つきを見ながら、自分が見下していたかもしれない相手の中に、ずっと確かな生活の知恵と責任が息づいていたのだと知る。追放同然の身で歩くこの道は、罰ではなく、王国を知り直すための入口なのかもしれない。そう思った瞬間、真由は初めて、王女という肩書きの外側にいる人々の顔を、真正面から見ようとしていた。
記憶を継ぐ王女
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