王宮の試験場は、石床に磨かれた光が冷たく跳ね返る場所だった。真由がそこへ戻ると、視線がいっせいに集まった。追放されたはずの王女が、まだここにいる。その驚きの中には、あからさまな侮りも混じっていた。蔑まれていた魔法の素質など、せいぜい飾りだと見ている者も多いのだろう。 対面したのは、王宮魔導士たちが用意した訓練用の結界だった。薄い膜の向こうで光の矢がいくつも生まれ、的へ向かって放たれる。真由は深く息を吸い、手のひらの奥にあるあの熱へ意識を沈めた。見えない流れが、糸の束のように指先へ集まる。以前は偶然のように起きた力を、今度は確かめながら差し出す。すると、結界の揺れが一瞬だけ変わり、光の矢の軌道がわずかに逸れた。 ざわめきが起きた。次の瞬間、真由は追い打ちのように飛んできた反発の魔力を見た。術式の隙を突くための、あまりに露骨な干渉だった。けれど彼女は怯まなかった。散らされた力を拾い直し、結界の綻びへ滑り込ませる。光がほどけ、空気が鳴る。試験場の中央で、彼女の魔法はたしかに形になった。 驚いたのは、派手さではなかった。誰かが意図的に試験を歪めていたことを、真由の応じ方があっさり暴いてしまったのだ。指示を出した者は、失敗を彼女の未熟さとして押しつけるつもりだったのかもしれない。だが反発の流れは、隣で見守る者たちの中に、別々の動揺を走らせた。王女の失点を望んでいた者と、失敗を隠したかった者。その利害が、同じ場でぶつかり合う。 真由は呼吸を整えながら、試験官たちの表情を順に見た。誰が安堵し、誰が青ざめ、誰が目を逸らすのか。その反応だけで、城の内部に複数の派閥があることがうっすらと見えてくる。自分を落としたかったのは、ただの個人的な悪意ではない。もっと大きな流れの中で、彼女は都合よく使われていただけだ。 ならば、真の敵は別にいる。魔族との緊張を煽り、城内で責任の押しつけ合いを生む何か。真由は結界の残光を見つめながら、その輪郭だけを静かに胸へ刻んだ。失地回復は、まだ始まったばかりだ。それでも今度は、誰かに決めつけられるだけの王女ではない。彼女の視線は、試験場の向こう側で固く口を結ぶ者たちへ、まっすぐ向けられていた。
記憶を継ぐ王女
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