エラベノベル堂

彼女に喰われる

18+ NSFW

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2章 / 全10

週末の午後、樹は葵咲の家の前に立っていた。古びたアパートの入り口で深呼吸をした。あの日から何度も後悔していた。不良少女と猫カフェなんて、釣り合うわけがない。 「来たのね」 背後から声がして、樹は飛び上がった。振り返ると、葵咲が立っていた。私服姿の彼女は、学校とはまた違う雰囲気を纏っている。黒のタイトなパンツに、ゆったりとしたニット。その丈の短さからは、白い肌が覗いていた。 「あ、うん。約束だったから」 「……本気だったの? てっきり冗談だと思ってた」 葵咲は小さく溜息をついた。 「で、どこ行くのよ」 「新しくオープンした猫カフェがあるんだ。すごく評判いいらしいから」 「猫カフェ」 彼女は眉をひそめた。 「私が猫好きだと思ってるの?」 「違うの? あの日、猫の前で泣いてただろ」 「……あれは別に」 葵咲は視線を逸らした。だが、否定はしなかった。 「猫好きなら絶対喜ぶと思うんだ。珍しい猫もいるらしいよ」 それは嘘だった。猫カフェに詳しいわけではない。ただ、彼女をデートに誘いたいという衝動だけで言葉を紡いでいた。 「なんでそこまで私と行きたいわけ?」 真っ直ぐに見つめられて、樹は言葉に詰まった。なぜだろう。あの瞬間、彼女の涙を見たとき、胸が締めつけられた。冷徹な不良という仮面の下にある、繊細な心を知ってしまったからかもしれない。 「あの日、君が泣いてるのを見て……放っておけなかったんだ」 「は? 何それ、気持ち悪い」 葵咲は顔を赤らめて顔を背けた。だが、その声に以前のような刺々しさはない。 「だから、行こう。俺が奢るから」 「お前が奢るって、学生のくせに」 「バイトしてるし、大した金額じゃないよ」 樹は一歩踏み出した。逃がしたくない。この機会を。 「……わかったわよ。一回だけだからね」 葵咲は諦めたように呟いた。 「もちろん。変なことしないから安心して」 「……信じないけど」 「え?」 「何でもない。さっさと行くわよ」 葵咲は歩き出した。樹は慌ててその後を追う。彼女の背中は小さかった。学校で見せる威圧的な姿とは違い、どこか危うげで、守りたくなるような儚さを感じる。 「猫カフェ、どこにあるのよ」 「駅前のショッピングモールの三階」 「……遠いじゃない」 「歩いて十五分くらい」 「チッ」 葵咲は舌打ちをしたが、歩くのをやめようとはしなかった。樹は彼女の横に並んだ。 「あのさ、名前で呼んでいい?」 「……勝手にしろ」 「葵咲」 「……変な奴」 彼女は呆れたように言ったが、その表情に僅かな変化があった気がした。ショッピングモールに着くと、葵咲は足を止めた。 「こんなとこ来たことない」 「初めて?」 「うるさい」 彼女は視線を逸らした。樹は何も聞かず、エスカレーターへと向かった。三階に着くと、猫のイラストが描かれた看板が見えた。 「猫カフェ・ねこねこハウス」 「ここだ」 「……ふん」 葵咲は興味なさそうに言ったが、その目は看板に釘付けになっていた。樹は微笑んだ。やっぱり、猫が好きなんだ。 「入ろう」 彼がドアを開けると、猫の鳴き声が聞こえてきた。葵咲の瞳が、僅かに輝いた。

2章 / 全10

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