放課後のチャイムが鳴って、教室のざわめきが一段落したころ、俺は校門の手前で立ち止まった。今日は遠回りして帰ろうか、そんな気分になっていた。すると、見覚えのある赤い髪が校舎の影から現れた。朱莉だった。 目が合った瞬間、逃げるべきか迷ったのが顔に出たのかもしれない。朱莉は面倒そうに眉をひそめ、それでも足を止めた。 「なんだよ」 とぶっきらぼうに言う声は、噂で聞くよりずっと低くて、けれど妙に落ち着いていた。 「いや、その……この前のこと、見てたから」 自分でも頼りない言い方だと思った。だが朱莉は肩をすくめただけで、すぐに歩き出した。 「見てたなら、立ってないで来いよ」 命令みたいな言い方なのに、妙に押しつけがましくない。そのまま並んで歩くことになり、俺は半歩遅れてついていった。校門を出てからもしばらく黙っていたが、朱莉は気にした様子もなく、商店街の方へ曲がる。寄り道する気らしい。 「いつもこっち帰るのか」 と俺が聞くと、朱莉は鼻で笑った。 「別に。たまたま」 たまたま、にしては足取りが慣れている。商店街の角で、彼女は店先の鉢植えを避けるように歩き、通りすがりの店主には短く会釈した。見た目は派手でも、妙に礼儀正しい。その一つ一つが噂と噛み合わなくて、俺は会話を続けるたびに変な居心地の悪さを覚えた。 「さっきの子のこと、知り合いだったのか」 「知らねえよ」 「なのに、あんなふうに」 「泣いてたら、放っとけねえだろ」 言い切る声は荒いのに、そこに嘘はなさそうだった。朱莉は前を向いたまま、少しだけ口を結ぶ。それから、まるで自分に言い訳するみたいに続けた。 「小さいのが困ってんの、見てらんねえだけ」 その言い方もぶっきらぼうだ。なのに、歩道を横切る自転車を自然に避けて、俺が狭い場所でよろければ一瞬だけ腕を引いてくる。ぶつかるほどではない、けれど確かに気づいている手つきだった。 「おまえ、思ってたよりちゃんとしてるんだな」 つい漏れた本音に、朱莉は横目で俺を見た。睨まれると思ったのに、返ってきたのは呆れたような一言だった。 「思ってたより、って何だよ。失礼だろ」 その瞬間、俺は黙るしかなかった。怖いはずの相手なのに、礼儀のないことにはちゃんと突っ込む。乱暴そうでいて、筋は通してくる。商店街の夕方の光の中で、朱莉の横顔だけが妙に鮮明だった。 やがて彼女は、八百屋の前で足を止めた。そこに目的があるようなないような寄り道の先で、朱莉は振り返り、少しだけ目を細める。 「おまえ、帰るなら勝手に帰れよ」 そう言いながらも、完全には追い払わない。俺はその曖昧さに戸惑い、うなずくことしかできなかった。怖い人だと思っていた相手と、こんなふうに放課後の道を並んで歩く日が来るなんて、少し前の俺なら想像もしなかっただろう。朱莉は相変わらずぶっきらぼうで、なのにやたらと礼儀正しくて、その矛盾が胸の奥に引っかかったまま、俺たちはしばらく無言で商店街の夕暮れを見上げていた。
不良少女と年下たち
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