放課後の商店街の外れにある広場は、いつもより子どもの声でざわついていた。ベンチの周りに小学生が数人集まり、地面には折り紙やらビー玉やらが散らばっている。俺は朱莉の隣でその様子を見て、なんとなく嫌な予感を覚えた。ここに、あいつが来たらどうなるのか。答えは、すぐに出た。 「おい、そこどけ」 背後から聞こえた声に、広場の空気が一斉に固まる。振り向くと、派手な赤い髪の朱莉が、いつものぶっきらぼうな顔で立っていた。小学生たちは目を丸くし、ひとりは持っていた折り紙を胸に抱えたまま後ずさる。俺まで反射的に肩をこわばらせた。噂のせいだけじゃない。朱莉は立っているだけで、場の主導権を奪う。 だが彼女は、子どもを怯えさせるために来たわけではなかった。広場の端に置かれていた水筒の箱がぐらついているのを見つけると、朱莉は苛立ったように舌打ちして、その前にしゃがみこんだ。 「こんなの、倒れたら危ねえだろ。誰が置いた」 問い詰める声は強いのに、指先は妙に丁寧だった。箱を押さえ、転がったものを拾い集め、ついでに子どもたちの足元まで見回している。誰かが泣きそうな顔をした瞬間、朱莉は少しだけ声を落とした。 「別に取らねえよ。そこにあったら踏むだろって話」 その言い方は相変わらず乱暴なのに、不思議とみんな少しずつ呼吸を戻した。俺がそばへ行って転がったビー玉を渡すと、朱莉はそれを受け取りながら、当然みたいに頷いた。 「遅い」 「おまえが早すぎるんだよ」 そう返すと、広場にいた子どもがひとり、こらえきれずに吹き出した。朱莉がぎろりと睨む。普通ならそこで黙るはずなのに、その子は怖がるどころか、むしろ楽しそうに朱莉を見上げた。 「でも、助かった」 短い一言だった。朱莉は一瞬だけ固まり、それから気まずそうに視線を逸らす。だが次の瞬間には、また大げさなくらいに場を整え始めた。 「助かったなら、そこに座るな。邪魔だろ」 子どもたちは、そんな言葉まで面白がって笑う。ひとりが朱莉の真似をして腕を組むと、周囲も真似をし始め、いつの間にか広場は妙な遊び場みたいになっていた。朱莉本人は納得していない顔をしているのに、子どもたちは彼女の一挙一動を待ち構えるようになる。 「おい、笑うな」 「朱莉、また来てよ」 名前を呼ばれて、彼女の眉がわずかに動いた。その隙をつくみたいに、別の子が折り紙を差し出す。 「これ、あげる」 朱莉は受け取るべきか迷ったように手を止めたが、結局、乱暴に見えて乱暴じゃない動きでそれを受け取った。 「……こんなの、いらねえし」 そう言いながら、しまう場所を探しているのが丸わかりだった。俺はその様子に呆れて、それでいて少し笑った。怖がられていたはずの朱莉が、気づけば一番囲まれている。けれど、子どもたちの笑い声の中に紛れて、彼女の本性がちゃんと鋭く残っているのも見えた。乱暴で、強引で、手加減を知らない。 ただの優しさじゃない。誰かを守るためなら、場の空気ごとひっくり返すような危うさがある。 それでも、広場を出るころには、子どもたちはすっかり朱莉のあとを追うみたいに手を振っていた。朱莉は振り返らない。なのに、足取りだけは少しだけ軽かった。
不良少女と年下たち
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