放課後の広場を抜けたあとも、朱莉は相変わらず前を行っていた。子どもたちに囲まれていたさっきの騒ぎが嘘みたいに、今はただ腕を振りながら歩く。その背中を追いかけるうちに、俺は少しずつ気づき始めていた。あの優しさは作り物じゃない。けれど同じくらい、乱暴さも本物だ。 その証拠みたいに、通りの角で朱莉は立ち止まった。細い路地から転がり出てきた空き缶を見て、舌打ちする。そして、近くを歩いていた小学生がそれを拾おうと手を伸ばすより早く、朱莉は缶をつまみ上げて壁際へ蹴った。 「危ねえから触んな」 言い方はきつい。子どもはびくっと肩を震わせたが、朱莉は気にした様子もない。むしろ苛立ちを隠さず、路地の奥をにらみつけた。 「こんなとこに捨てんなっての」 その声は、守るためというより、邪魔なものを殴り飛ばすみたいに荒かった。 俺は思わず立ち止まる。さっきまでの丁寧さを知っているからこそ、その乱暴さが妙に生々しい。困っている子どもにはあれほど気を配るのに、邪魔だと判断したものには容赦がない。朱莉の中では、やさしさと強引さがきれいに分かれていないらしかった。 「おまえ、今のちょっと怖いぞ」 そう言うと、朱莉は振り返って眉をひそめた。 「はあ? 当たり前だろ。危ねえのは危ねえんだよ」 その一言に、俺は返せなかった。正しいのかもしれない。でも、見せ方があまりにも朱莉らしくて、否定する気にもなれない。 さらに少し進んだ先で、道端に置かれた荷物を見つけた朱莉は、勝手にそれを動かし始めた。持ち主らしい店番の人が声をかけるより先に、彼女は棚の陰へ寄せてしまう。 「ちょっと、勝手に」 「邪魔だったからだろ」 短いやり取りなのに、空気は妙に張りつめる。相手が言い返そうとする前に、朱莉はもう別の方向へ目を向けていた。助ける時は迷わないのに、押し切る時も同じくらい迷いがない。 俺はその横顔を見ながら、妙な息苦しさを覚えた。怖い人だと聞いていた朱莉は、たしかに怖い。けれど、その怖さは噂の中だけのものじゃない。ちゃんと乱暴で、ちゃんと強い。なのに同時に、目の前の小さな危なさには驚くほど真剣だ。 その落差に、頭が追いつかない。 「ほんとに、おまえって極端だな」 ぼそっと漏らすと、朱莉は少しだけ歩く速度を落とした。 「うるせえ。文句あるなら置いてけ」 そう吐き捨てるくせに、完全には突き放さない。俺が黙ってついていくと、彼女は何も言わずに歩き出した。 さっきの優しさも、今の乱暴さも、どっちも見た。どっちかが偽物ならよかったのに、そうは思えない。だからこそ、簡単に逃げられなかった。 俺は朱莉の少し先を見ながら、結局またその背中を追いかけていた。
不良少女と年下たち
全年齢小説ID: cmoustnqk0b2401pc2jutq4g3
