エラベノベル堂

赤タイツの秘密

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3章 / 全10

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春川浩は、真理がこちらに気づいた瞬間、時間まで止まったみたいに固まるのを見た。さっきまで静かに伸び縮みしていた肩も、回っていた首も、ぴたりと止まる。月明かりの下で、彼女の顔から血の気が引いていくのが分かった。 その表情は、むしろ幽霊より怖かった。 浩は一歩も引かなかった。むしろ胸の奥で、逃げろと言う声より先に、なんだそれ、という好奇心がふくらむ。怖がっていたはずなのに、こうなると黙って帰るほうが気持ち悪い。 「先輩、何してるんですか」 自分でも驚くほど、声は普通に出た。 真理は、ぎこちなく視線をそらした。赤い服の裾を握りしめ、口を開きかけては閉じる。 「え、えっと……ちょっと、運動を」 「この時間に? ここで?」 「夜風が、ほら。気持ちいいから」 「運動にしては、ずいぶん変でしたけど」 浩が畳みかけると、真理の肩が小さく跳ねた。普段なら教室の空気を整えるみたいにきっちり返してきそうなのに、今の彼女は言葉を探すたびに崩れていく。 「変、ではなくて、その、準備運動というか……」 「赤いのもですか」 「それは……その……」 真理は口元を押さえたまま黙り込んだ。さっきまでの威圧感はどこへ行ったのか、今は秘密を踏まれた猫みたいに縮こまっている。浩はますます気になって仕方がなくなった。 「先輩、ほんとは何なんですか。赤タイツ男って、先輩のことだったんですか」 「違う、あれは、その……偶然というか、誤解というか」 「じゃあ、どうしてこんなところで、そんな格好で」 真理は唇をきゅっと結び、数秒だけ黙った。公園の静けさが、やけに大きく耳に残る。やがて彼女は、諦めたように細く息を吐いた。 「……見なかったことに、してくれない?」 その声はいつもの澄ました調子ではなく、ひどく頼りない。 浩は返事の代わりに、真理を見つめた。怖がりのはずなのに、今は引っ込む気になれない。秘密を握ったみたいで少し優越感もあるのに、それ以上に、学校で見てきた完璧な先輩の別の顔を前にして、目が離せなかった。 「先輩がちゃんと説明するまで、無理です」 そう言うと、真理は困ったように眉を下げた。 その表情が、浩の知っている先輩のものよりずっと人間らしく見えて、夜の公園はさっきより少しだけ現実味を失った。真理はまだ何も言わない。ただ、赤い裾を握ったまま、どうにかごまかす言葉を探している。浩はその様子を見つめながら、次の一言を待った。

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