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赤タイツの秘密

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4章 / 全10

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「見なかったことに、って言われても、見ちゃったしなあ」 春川浩がわざとらしく肩をすくめると、高瀬真理は赤い裾を握ったまま、ますます居心地悪そうに目を伏せた。さっきまでの威圧感はどこへ消えたのか、学校で見せるきっぱりした姿が嘘みたいだ。 「……本当に、誰にも言わないで」 「それは、先輩の態度次第かな」 浩は少しだけ声を軽くした。怖がっていたはずなのに、今は不思議と足がすくまない。秘密を握った優越感もある。だが、それ以上に、完璧に見えた先輩がこんなふうに狼狽えるのが、妙に面白かった。 真理は返す言葉を探して口を開き、結局また閉じた。その沈黙が長くなりそうだったので、浩は近くのベンチを親指で示した。 「ここ、立ち話って感じでもないし。座ります?」 真理は一瞬ためらったあと、小さくうなずいた。二人でベンチに並ぶと、夜気の冷たさが少しだけ和らいだ気がした。街灯の薄い光の下、真理は背筋を正そうとして、逆に緊張が見えてしまう。 浩はその様子を横目に見て、わざとらしく顎に手を当てた。 「先輩って、やっぱり学校でも家でも、ずっとちゃんとしてるんですか」 「……そんなことない」 即答だった。だが否定しながらも、真理の指先は落ち着きなく膝の上をなぞっている。 「でも、いつも余裕そうですけど」 「余裕に見せてるだけ」 短い返事に、浩は少し目を丸くした。真理は視線を前に向けたまま、言い足すように小さく息を吸う。 「失敗すると、全部だめになる気がして……変に力が入るの。だから、ひとりの時は、こういう、誰にも見られない場所で……落ち着こうとしてるだけ」 言葉は途切れ途切れで、けれど嘘は混じっていないように聞こえた。浩はからかう口を閉じる。赤い格好の奇妙さは消えないのに、その裏にある張りつめたものを知ると、笑い飛ばすだけではいられなかった。 真理は自分で話したことに驚いたのか、はっとして口元を押さえる。 「今の、忘れて」 「忘れませんよ。ますます気になったし」 そう返すと、真理は困ったように眉を寄せた。その顔は、教室で見る冷静な先輩ではなく、ただ緊張を抱えた一人の人だった。浩はベンチに背を預け、夜空を見上げる。 秘密を握ったはずなのに、胸の中に残ったのは勝ち誇った気分だけではなかった。赤い服の隣に座る先輩が、思っていたよりずっと息苦しい場所で毎日をこなしている。そのことが、なぜか妙に気になってしまう。 真理はまだ何も言わない。ただ両手を膝の上で固く結び、次に何を問われるのか身構えている。浩はその横顔を見ながら、からかいの続きを飲み込み、ベンチの上で静かに言葉を探した。

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