「……そういう顔、しないでくださいよ」 春川浩がそう言うと、高瀬真理ははっとしたように目を上げた。さっきからずっと、何かを待つみたいに身を固くしている。その様子が、夜の暗さよりずっとわかりやすくて、浩は思わず肩を揺らしそうになった。 「笑わないの?」 「笑いますけど、今じゃないです」 「どういう意味」 真理は困ったように眉を寄せる。浩は一度だけ口元を押さえ、わざと視線を外した。だが、ふるえそうになる肩は隠しきれない。赤い格好で夜の公園に来て、誰もいない場所で体をほぐすと落ち着くなんて、あまりにも真面目で、あまりにも不器用だった。 「先輩、変ですよ」 「自分でも分かってる」 「かなり」 「……分かってるって」 言い返しながらも、真理の声は弱い。浩はとうとう堪えきれず、小さく吹き出した。最初は息が漏れただけだったのに、次第にこらえるほど苦しくなる。肩が震え、喉が鳴る。笑ってはいけないと思うほど、余計におかしくなった。 真理は顔をしかめたが、怒るより先に視線を逸らした。その横顔には、恥ずかしさと諦めが半分ずつ混じっている。 「そんなに面白い?」 「だって、先輩、学校じゃあんなに完璧なのに」 浩は笑いを噛み殺しながら言った。 「公園で赤い格好して、ひとりで体操してるんですよ。反則ですって」 「言い方」 「でも、ちょっと安心しました」 その一言で、真理の肩がわずかに下がった。浩はまだ笑いの余韻で震えていたが、その奥に、軽く扱ってはいけないものがあると気づく。完璧に見える人ほど、見えないところで必死なのかもしれない。そう思うと、からかい半分で握っていた秘密が、急に重たくなった。 真理は赤い裾をそっと整えた。もう逃げるつもりはないらしい。 「……誰にも言わないで」 今度は、さっきまでの懇願とは少し違う声だった。浩はまだ笑いの気配を残したまま、まっすぐにうなずく。 「言いませんよ。先輩がこんなふうに無理してるって、他のやつに知られたら面倒そうだし」 真理は目を伏せた。否定しなかった。 夜風がベンチのあいだを抜け、街灯の光がふたりの影を短く揺らす。浩は笑いの残滓を指先でぬぐいながら、思った。これはもう、ただの怪談じゃない。誰にも見せたくない弱さを、たまたま自分が見てしまっただけだ。 だからこそ、守るべきなのだろう。 浩は何気ないふりで前を向いたが、心の奥でははっきり決めていた。この秘密だけは、自分の中に閉じ込める。赤タイツの先輩が、また一人で夜の公園に来るとしても、それを笑いものにはしない。 真理はまだ何も言わず、両手を膝の上で静かに握っている。浩はその隣で、今度は本気で口をつぐんだ。
赤タイツの秘密
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