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赤タイツの秘密

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7章 / 全10

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放課後の空気がまだ教室の隅に残っているうちに、春川浩は高瀬真理と校舎を出た。昼の噂は、もう何人かの口を経て形が曖昧になっていたが、だからこそ放っておけなかった。 「公園の話、先輩も聞きました?」 浩が小声で言うと、真理は眉をひそめたまま、短くうなずいた。 「……少し。けっこう広がってるみたい」 「このままだと、赤タイツで定着しますよ」 「やめて」 切羽詰まった返事に、浩は苦笑した。真理はいつもの冷静さを取り戻しきれていない。だが、焦りの色があるぶん、話は早かった。 「なら、逆にぼかすしかないですね。ひとつの怪談にしないで、別の話に混ぜるんです」 「別の話?」 「見る人によって違う、ってことにするんです。赤い服じゃなくて、白い影を見た人もいたことにするとか。ブランコじゃなくて、滑り台の近くだったとか。証言が割れれば、噂は勝手に弱くなる」 真理は立ち止まり、少しだけ考え込んだ。夕方の風が髪を揺らし、整えたはずの前髪がわずかに乱れる。 「そんなので、本当に曖昧になるの?」 「怪談って、だいたい曖昧なまま育つんですよ。なら、最初から輪郭を崩しておけばいい」 真理は納得しきれない顔をしたが、否定もしなかった。浩はそのまま、公園へ向かう途中でやることを手短に説明する。真理は公園で見たという人への言い方を少し変え、浩は自分が聞いた話の細部を曖昧にしていく。赤い服の色、立っていた場所、動きの速さ。ひとつひとつを食い違わせれば、一本の線にはならない。 二人は公園に着くと、まずベンチのそばに立ち、互いの言い分を確かめた。浩が 「奥の木の近くだった気がする」 と言えば、真理は 「私は遊具の陰だと思う」 と返す。浩が 「そんなに派手じゃなかった」 と言えば、真理は 「暗くて、よく見えなかっただけ」 と重ねる。 わざとらしいほど食い違うのに、内容が妙に噛み合っているのが可笑しかった。 「これ、逆に怪しくならない?」 真理が小さく言うと、浩は肩をすくめた。 「大丈夫です。人って、はっきりしない話ほど勝手に補いますから。補えないくらい散らせば、今度は勝手に疲れる」 真理は困ったように息を漏らしたが、少しだけ肩の力が抜けたのが分かった。 浩は、誰かに聞かれたときのための答えをいくつか口にした。赤いものを見た気がしただけ。風に揺れた看板かもしれない。ブランコのきしみだったかもしれない。そうやって輪郭を溶かしていくうちに、さっきまでくっきりしていた赤タイツの像が、薄い霧に紛れていく気がした。 真理も同じように、落ち着いた声で断片を並べていく。誰にも見られない場所で一人で緊張をほぐしていた、という本当の話さえ、噂の中ではただの断片になっていく。 「……これで、少しはましになるかな」 真理が夜の公園を見ながらつぶやいた。 浩は答える代わりに、並んだ証言の食い違いを頭の中でもう一度つなぎ直し、やはり形にならないことを確かめた。怪談は、はっきりした正体を失った時点で、もう半分は消えている。 残ったのは、曖昧なまま誰かの記憶に引っかかる影だけだった。

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