将大は美玲先輩の言葉に言葉を失った。赤いタイツを履けと、本気で言っているのか。彼女の潤んだ瞳を見つめ返すが、そこには冗談を含んだ光はなかった。 「先輩……それは」 「冗談に見える?」 美玲先輩がゆっくりと起き上がり、将大を見下ろした。赤いタイツに包まれた身体が、街灯の下で妖しく光る。その表情には、いつもの優等生の面影はなかった。 「あんた、私のこの姿を見たでしょ。写真も持ってる」 「それは……」 「もし私が普通の生活に戻りたくなったら、どうすればいいと思う?」 将大は息を呑んだ。彼女の言わんとしていることが分かった。 「……証拠を消せばいい」 「そう。でもあんたはバックアップを取ったって言ったわよね」 美玲先輩が将大のスマホを指差した。その目には、冷徹な計算が宿っていた。 「私が学校でこのことをばらしたら、あんたの人生も終わりよ。脅迫して、先輩と関係を持った変態後輩として」 「先輩、それは……」 「お互い、弱みを握り合ってるってこと」 彼女が赤いタイツの脚を組み、芝生に座り直した。 「でも、私の秘密のほうが重いわ。だから、釣り合いを取りたいの」 「……赤タイツを履けってことですか」 「そう」 将大は笑いをこらえるのに必死だった。受験のストレスで赤タイツを履いて深夜の公園で体操をする先輩。そして、その共犯者として自分も赤タイツを履けと言う。 「ふっ……」 肩が震えてしまう。必死に笑いを堪えたが、美玲先輩には伝わってしまったようだ。 「……何がおかしいの」 彼女の声が低くなった。 「いえ、なんでも」 「笑ったわね」 美玲先輩が鬼のような形相で睨みつけてきた。その迫力に、将大は思わず後ずさった。 「あんた、私のこの姿を見て、滑稽だと思ってるの?」 「そんなこと……」 「私が必死でストレスを発散してる姿を、笑いものにしてるの?」 「先輩、落ち着いて」 「落ち着けって言われると、余計に腹が立つわ!」 彼女が立ち上がり、将大を見下ろした。赤いタイツの艶やかな質感が、逆光の中で不気味に光る。 「分かったわ。こうなったら、徹底的にやってあげる」 「え?」 「この秘密をばらしたら、あんたも赤タイツ仲間にして人生を終わらせてやる」 彼女の声には、確固たる決意が宿っていた。 「学校中に言いふらしてやる。将大くんは私と一緒に赤タイツを履いて、深夜の公園で変な体操をしてたって」 「待ってください、先輩」 「それとも、大人しく共犯者になる?」 将大は冷や汗を流した。このままでは、本当に破滅させられる。 「……分かりました」 「何が?」 「共犯者になります。秘密は絶対に守ります」 美玲先輩が満足そうに微笑んだ。 「よろしい。じゃあ、次からはあんたも赤タイツを履いてきなさい」 「……本気ですか」 「当然でしょ。共犯者なんだから」 彼女が芝生から立ち上がり、赤いタイツを整えた。 「明日の夜、ここで待ってるから」 「……分かりました」 将大は絶望と奇妙な興奮が入り混じった感情を抱きながら、頷いた。
赤タイツの秘密
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