悠真は紙片に残された連絡先を見て、美音の顔と交互に視線を行き来させた。迷いはあった。けれど、ここで黙って別れれば、彼女はまた冷たい夜にひとり戻るだけだ。 「……一度、連絡してみたらどうですか」 そう口にすると、美音は意外そうに目を上げた。彼女は小さくうなずき、少し震える指でスマホを取り出した。画面を開くまでの動作が、妙に遅く見えた。 しばらくして、彼女は短い文面を打ち込み、送信した。悠真には内容までは見えなかったが、願うような沈黙がそこにあった。返事を待つあいだ、美音は唇を結び、冗談めかして笑おうとしたものの、うまくいかなかった。 やがて着信音が鳴った。美音の肩がぴくりと揺れ、彼女は画面を覗き込む。だが、そこに返ってきた言葉は、抱えていた期待を受け止めるものではなかった。たった一行、必要最低限の冷たさだけが並んでいた。 美音は何も言わなかった。だが、その沈黙が答えになっていた。目元の熱が引くように表情が固まり、握ったままのスマホがやけに小さく見えた。強がろうとしていた気配も、すぐにほどけてしまう。 悠真は玄関先の冷気を思い出した。こんな顔をしたまま、彼女を外へ戻す気にはなれない。サンタの格好のまま、行くあてもない女性を廊下に立たせておくには、夜があまりにも深すぎた。 「寒いでしょう。とりあえず、中に入りませんか」 自分でも思ったより穏やかな声が出た。美音は驚いたように悠真を見る。すぐに断るのかと思ったのかもしれない。だが彼女は視線を落とし、ひとつ息を吐いてから、かすかにうなずいた。 「……少しだけ、失礼します」 その返事は控えめだったが、さっきまでの拒むような硬さはなかった。悠真は玄関を広く開け、靴を脱ぐスペースを示した。部屋の中は暖房が効いているとはいえ、窓際にはまだ冬の気配が残っている。それでも、外よりはずっとましだった。 美音が一歩を踏み入れるたび、白い綿の縁が灯りを受けて揺れた。悠真はその後ろ姿を見送りながら、たった今交わした短いやり取りが、この夜を少しだけ違う方向へ曲げたことを、まだはっきりとは理解していなかった。
聖夜の訪問者
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