エラベノベル堂

聖夜の訪問者

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小説ID: cmoz7v8pc000801noqx3hozu9

5章 / 全10

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気まずさは、完全に消えたわけではなかった。けれど、沈黙の角が少し丸くなっただけで、部屋の空気はずっと呼吸しやすくなっていた。 美音が器を両手で包んだまま、ふと視線を上げる。テーブルの端には、悠真が先ほどまで手をつけていた小さな紙袋と、買い置きの細いリボンが置きっぱなしになっていた。窓際の棚には、まだ箱のままの飾りもある。部屋の中に、ほんの少しだけ季節の気配を足せる余地が残っていた。 「それ、飾るんですか」 美音がリボンを見て言った。悠真は自分でも忘れていたように、その紙袋を見下ろす。 「一応。買ったはいいけど、ひとりだと面倒で」 「面倒、ですか」 「飾りつけって、誰かとやるものみたいで」 言いながら、少し照れくさくなって悠真は視線を外した。すると美音が、かすかに肩を揺らした。 「それ、今さら言います? 私、かなり気まずい格好のままでここに座ってるんですけど」 その言い方が思いのほかおかしくて、悠真は短く息を漏らした。美音も自分で言っておきながら、堪えきれないように笑う。さっきまで張りつめていた空気が、その笑いでふっとほどけた。 「じゃあ、手伝ってもらえますか」 悠真がそう言うと、美音は一度だけ目を丸くして、それから素直にうなずいた。 「いいですよ。お礼にしては、だいぶ雑用っぽいですけど」 二人で椅子を少し動かし、棚の箱を開ける。取り出したのは小さな星の飾りと、紙でできた細いガーランドだった。美音はサンタ風の袖を気にしながらも、器用にリボンの端を結ぶ。悠真が脚立代わりの椅子を押さえると、彼女は少しだけ身を乗り出して、壁のフックに飾りを掛けた。 「もう少し右です」 「このへん?」 「そこで大丈夫。……はい、今度はちょうどいいです」 声を掛け合うたび、距離が縮まる。触れそうで触れない位置にあるはずなのに、さっきまでのよそよそしさは、もうどこにもなかった。美音が振り返ると、飾りの赤と金が柔らかく灯りを返す。部屋は劇的に変わったわけではない。それでも、白い壁の無機質さに、少しだけ呼吸のような彩りが生まれていた。 「なんだか、ちゃんとクリスマスっぽくなりましたね」 美音が言う。悠真は飾りの揺れを見上げて、小さく頷いた。 「ひとりで見てたときより、ずっとそう見える」 その言葉に、美音は驚いたように瞬きをして、それから目を伏せた。笑っているのに、どこか胸の奥が温かくなるような顔だった。 「私もです。さっきまで、ただ寒いだけだったのに」 悠真は何も言わず、飾りの紐を少し直した。美音も隣で手を止める。肩と肩の間には、まだわずかな空間がある。それでも、その隙間さえ、気まずさではなく余白のように感じられた。 窓の外では、遠い街の気配がまだ賑やかに揺れている。だが部屋の中では、二人で結んだ小さな飾りが静かに揺れ、そこだけが少しだけ特別な夜になっていた。

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