エラベノベル堂

聖夜の訪問者

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小説ID: cmoz7v8pc000801noqx3hozu9

6章 / 全10

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窓の外では、まだ街の賑わいが遠くで揺れていた。笑い声と車の音が、薄いガラス越しにかすかに混じり合って、ここだけ時間の流れが違うみたいだった。飾りつけを終えた部屋は少しだけ華やいでいるのに、静けさはむしろ深くなっていた。 美音は壁際の椅子に腰を下ろしたまま、しばらく何も言わなかった。さっきまでの強がりはもう薄れている。それでも、何かが解けたあとに残る不安は、すぐには消えないらしかった。両手を膝の上で組み、指先だけが小さく動いている。 「……私、帰る場所がないって、やっと分かった気がします」 ぽつりと落ちた声は、部屋のぬくもりに溶けきらず、まっすぐ悠真の耳に届いた。悠真はすぐに返事をしなかった。軽く受け流せる言葉ではなかったし、何より、その不安が本物だと分かっていたからだ。 美音は視線を上げずに続ける。 「さっきまでは、まだどこかで大丈夫だと思ってました。連絡すれば、なんとかなるって。ここに来る前も、ここに来てからも、ずっとそう思おうとしてたんです。でも、たぶん違ったんですね」 言いながら、彼女は自分でその答えを確かめるように息を吐いた。赤いフードの縁が、肩の動きに合わせてわずかに揺れる。サンタの格好のままうなだれる姿は、どこか滑稽なのに、見ている悠真の胸には笑いより先に、放っておけない気持ちが広がった。 「一晩だけでも、ここにいていいですか」 その問いは、頼みごとというより、消えそうな灯を守るみたいに慎重だった。悠真は、椅子から立ち上がることも忘れたまま、美音を見た。 「一晩だけ、なんて言わなくていいですよ」 自分の声が思ったより落ち着いて聞こえて、少し意外だった。美音はようやく顔を上げる。警戒の色はまだ残っていたが、そこに張りついていた硬さはもうなかった。 「ここにいてもいいです。今夜は、帰る場所を決めなくてもいい」 言葉にした瞬間、部屋の空気がほんの少し変わった。美音のまばたきがゆっくりになり、緊張で結ばれていた口元が、わずかにゆるむ。 「……そんなふうに言われると、困ります」 「困らせましたか」 「少し」 そう答えたのに、美音は困ったように笑っていた。さっきまでの張りつめた笑いではない。もっと小さくて、弱くて、でも確かに人の温度を含んだ笑いだった。 悠真はその笑顔を見て、ふと気づく。彼女はやっと、拒まれる心配より先に、安心して迷える場所に立ったのだ。居場所がない不安を口にできるほどに、今はもう部屋が静かだった。 「朝になったら、また考えましょう」 そう言うと、美音は少しだけ目を細めた。 「……朝まで、考えなくていいんですか」 「ええ。今夜は、それでいいです」 返事のあと、しばらく二人は黙っていた。窓の外の賑わいはまだ続いているのに、この部屋の中には、急かすものが何もなかった。美音は膝の上で組んでいた指をほどき、そっと胸の前に置いた。 「ありがとうございます」 その一言は、最初に会ったときの礼よりずっと深く響いた。悠真はうなずくだけで答えた。思わぬ優しさが、美音の警戒心を少しずつほどいていくのが分かったからだ。彼女は小さく息をつき、飾りの揺れる壁を見上げた。今夜だけは、帰る場所を探さなくていい。その事実が、静かに二人の間へ沈んでいった。

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