「で、次は何を自慢する?」 優真がそう言った瞬間、教室の後ろから 「え、まだ続けてたの」 と気の抜けた声がした。 振り向くと、同じクラスの男子が机に鞄を引っかけたまま、面白そうに二人を見ている。休み時間のざわつきに紛れていたらしく、どうやら最初から少しだけ聞かれていたらしい。 「今の、彼女の話?」 「違うし」 「え、違わないでしょ」 問い詰めるでもなく、ただ興味だけが前に出た顔だった。優真は一瞬言葉に詰まり、柚菜も同じく肩を固くする。だが、ここで引いたら負けだという空気が、なぜか二人の間でぴたりと揃ってしまった。 「違わないわけじゃないけど、まあ、そういう話もある」 優真が曖昧に誤魔化すと、柚菜がすかさず乗る。 「そういう話って何。ちゃんと聞いてたなら、もっとあるでしょ」 「あるけど?」 「あるなら言いなよ」 男子は目を輝かせて、完全に聞く姿勢になっている。優真は内心で舌打ちしたくなったが、隣で柚菜が妙に堂々としているのを見て、意地が先に立った。 「うちの彼女は、さりげなく気が利くんだよ。こっちが何も言わなくても、必要なことを先回りしてくれる」 「へえ。そっちの彼氏は、そういうのを言葉にしなくても分かるタイプなんだよね。しかも、ちゃんと場を読むし」 「場を読む、って何だよ」 「そのままの意味」 会話はすぐにいつもの調子へ戻る。むしろ、見ている人がいるぶん、二人とも少しだけ張り切っていた。 「俺の彼女は、誰にでも優しいわけじゃないのがいいんだよな」 「私の彼氏だって、気を抜くと甘すぎるくらいなのに、肝心なところは真面目」 「甘すぎる、は褒めてるのか?」 「褒めてるでしょ」 「褒めてるなら、俺のほうが上だな」 「は?」 「だって、俺の彼女のほうが一枚上手ってことだし」 柚菜は一度だけ瞬きをしてから、すぐに笑った。 「その理屈、雑すぎ」 「雑じゃない」 「雑」 「じゃあ、そっちも雑ってことになるけど」 言い返したはずなのに、最後は見事に同じ温度で噛み合ってしまう。見ていた男子が、とうとう堪えきれずに吹き出した。 「お前ら、ほんと仲いいな」 その一言で、優真と柚菜は同時に顔をしかめる。 「仲良くない」 「別に」 声まで重なって、今度は三人目まで笑った。 優真は気まずさを隠すように咳払いをし、柚菜は机の上の消しゴムを指で転がす。けれど、もう引っ込めるつもりはなかった。幼馴染だからこそ、遠慮がない。遠慮がないからこそ、少しの強がりも、そのまま掛け合いになる。 「それで、次は?」 男子がさらに身を乗り出すと、柚菜は優真を見た。優真も負けじと見返す。 「次は、私のほうが上だって証明する話でもする?」 「上って何が」 「大人っぽさ」 「いいじゃん。こっちも負けないし」 興味津々の視線が一つ増えただけで、二人の張り合いはなぜか拍車がかかる。教室のざわめきの中で、息の合った言い争いだけがやけにくっきり響いていた。
幼馴染の見栄恋
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