「大人っぽさ、ね」 優真はわざと笑ってみせたが、胸の奥では少しだけ焦っていた。ここまで来ると、ただの冗談では済まない気がする。柚菜も同じように平静を装っているけれど、耳の先まで妙に赤い。互いに見抜いている。見抜いているのに、認めない。 「いいんじゃない? そっちが言い出したなら」 柚菜が肩をすくめる。優真はその仕草に、いつも通りの幼馴染らしさを見つけて、余計に腹が立った。こんなに自然に張り合えるのに、なぜ肝心のところだけは噛み合わないのか。 「俺だって負けてないし」 「何に?」 「全部」 「雑」 柚菜は即答したが、口元には笑いが残っていた。優真も釣られて笑いそうになるのをこらえる。教室の中では、さっきの男子がまだこちらを気にしている。興味本位の視線があるだけで、二人の会話は妙に後戻りできなくなる。 「そもそも、優真って本当に彼女いるの?」 柚菜が何でもない顔で投げた言葉に、優真の肩がわずかに揺れた。鋭い。あまりに鋭い。だが、今さら引けるはずもない。 「いるに決まってるだろ」 「ふうん」 「その顔、信じてないだろ」 「別に」 柚菜は視線を外した。けれど、その横顔は完全に言外を語っている。優真も察していた。柚菜だって、きっと同じだ。誰かと付き合っているような話を盛りながら、実際にはその誰かがどこにもいないことを、二人とも知っている。 知っているのに、知らないふりをする。 「柚菜こそ、そんなに詳しいなら自分の彼氏の話でもちゃんとしろよ」 「してるじゃん」 「盛ってるだけだろ」 「そっちだって」 言い返した瞬間、二人は同時に黙った。教室の空気が少しだけ止まる。はっきり言葉にすれば終わるはずのことなのに、終わらない。暴けそうで暴けない、その一歩手前の距離が、どうにも厄介だった。 男子が小さく咳払いをする。優真は視線を戻し、柚菜もまた真正面から見返した。 「じゃあ、こうしようかな」 柚菜が先に口を開く。 「何を」 「次に言ったほうが、もっと大人っぽいってことにする」 「勝手に決めるな」 「決めないと、ずっと終わらないでしょ」 その一言に、優真は言い返せなかった。終わらないからこそ、面倒で、面倒だからこそ、少しだけ燃える。柚菜も同じ気持ちなのだと、顔を見ればわかってしまう。 「いいよ。受けて立つ」 「言ったね」 「言った」 二人は、互いの嘘を知りながら、まだ崩さない。崩せないのではなく、崩したくないのかもしれない。そんな考えがよぎった瞬間、優真は自分でも驚くほど強く、柚菜を意識していた。 柚菜もまた、優真をまっすぐ見たまま、負けず嫌いな光を目に宿している。 教室のざわめきは戻りはじめていたが、二人の間だけは妙に張りつめたままだった。見つかりそうで見つからない嘘が、なぜかいちばん熱い火種になっていく。
幼馴染の見栄恋
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