「じゃあ、勝負にしよう」 柚菜が指先で机をとん、と叩いた。さっきまでの軽口より少しだけ低い声だったので、優真は思わず彼女を見返す。 「勝負?」 「そう。ゲームの罰ゲーム、ってことにすればやりやすいでしょ」 周囲はまだ、いつものじゃれ合いが始まったくらいにしか思っていない。だが優真には、柚菜が本気で逃げ道を塞いできたのがわかった。 「罰ゲームの内容、ちゃんと決めるのかよ」 「決める。恋愛経験とか、大人っぽさとか、そういうのを比べるの」 「それ、かなり曖昧じゃないか」 「曖昧なくらいがいいの。細かく決めたら、余計に目立つでしょ」 その言い方はもっともだった。教室の中で大げさにすれば、また周りの興味を呼ぶ。けれど、軽い遊びに見せたままなら、二人だけの勝負として成立する。 優真は腕を組み、わざと余裕ぶった顔を作った。 「いいよ。大人っぽさなら、俺のほうが上だし」 「へえ。言ったね」 「言った」 「じゃあ、負けたほうが次の罰ゲームね」 「罰ゲームで罰ゲームを足すなよ」 柚菜は笑ったが、笑い方が妙に真剣だった。優真も気づく。これはただの言い合いじゃない。今までの見栄は、相手の反応を見るための前振りだったのだと、ようやく形になってきた。 「で、最初は何を比べる?」 「恋愛経験」 柚菜が即答したので、優真は少しだけむせた。 「いきなりそこ?」 「だって、そこが一番わかりやすいじゃない」 「わかりやすいっていうか、危ないっていうか」 「大丈夫。あくまでゲーム。罰ゲームってことで」 その言葉に、優真は短く息を吐いた。柚菜は平然としているようで、目だけが妙に熱い。たぶん彼女も、ここで引けば二人とも今までの嘘が宙ぶらりんのまま残るとわかっている。 「じゃあ、先に言ったほうが勝ちでいい?」 「いいよ。でも、ちゃんと答えられなかったら負け」 「雑に厳しいな」 「優真が甘いの嫌いだから」 そう返されて、優真は言葉に詰まった。嫌いなわけじゃない。むしろ、柚菜にだけは甘えられないことが腹立たしいのだ。 教室の前方で誰かが笑った。二人のやり取りは、周りから見ればまた妙な勝負を始めた程度にしか映っていない。けれど、優真にはわかっていた。これは恋人のふりの延長じゃない。互いの本音を少しずつ探るための、逃げられない場だ。 「じゃあ、俺からな」 優真はそう言って、わざと呼吸を整えた。柚菜の視線がまっすぐ刺さる。負けたくない。けれどそれ以上に、相手が何を考えているのか、今度こそ知りたい。 柚菜も同じ顔をしていた。 軽いはずの勝負は、始まる前からもう重たかった。
幼馴染の見栄恋
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