エラベノベル堂

幼馴染の見栄恋

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6章 / 全10

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「じゃあ、先に言うけど」 優真が言いかけると、柚菜は片眉を上げた。 「逃げないでね」 「逃げるかよ」 そう返したものの、口の奥が少し乾いていた。恋愛経験だの大人っぽさだの、軽く言い始めたはずなのに、今は妙に息が詰まる。柚菜も同じらしく、机に置いた指先だけが落ち着きなく動いている。 「えっと、たとえばさ」 優真は視線を少しだけ外した。 「好きな相手と、距離を縮めるときって、急に行くより、まず相手の反応を見るだろ」 「うん」 「相手が嫌そうじゃないか、ちゃんと確認して、それで少しずつ、こう……近づくというか」 言いながら、自分でも曖昧すぎると思った。だが、言葉を整えようとすると、余計に変になる気がした。柚菜は小さく頷いたあと、わざとらしく腕を組む。 「つまり、勢いじゃなくて空気を読むってこと?」 「そういうこと」 「ふうん。優真にしてはまとも」 「今、にやけた?」 「別に」 そんな会話をしているだけなのに、なぜか視線が合うたびに胸の奥がざわつく。空気を読む、という言葉が自分たちの間ではやけに重かった。相手を意識しているのが、自分だけじゃないかもしれないと気づくたび、変な熱がこみ上げる。 「じゃあ次」 柚菜はわざと声を張った。 「連絡って、どういうのがいいの?」 「連絡?」 「そう。ほら、相手に気持ちを伝える手段っていうか」 優真は一瞬黙った。メッセージの返し方なら、これまで散々盛ってきた。だが、実際に誰かとやり取りしている前提で語ると、途端に薄っぺらくなる。 「短すぎると冷たく見えるし、長すぎると重いし」 「重いって、どのくらい?」 「その、相手が返しづらいくらい」 柚菜がふっと笑う。 「優真、妙に分かってるみたいに言うじゃん」 「そっちこそ」 「私も、まあ、知ってるし」 知っているはずなのに、二人とも言い方がぎこちない。まるで見本をなぞっているみたいで、肝心の温度だけが足りなかった。なのに、そんな不自然さを互いに指摘できない。言えば、自分まで空っぽだと認めることになるからだ。 「でもさ」 柚菜が少しだけ声を落とした。 「ちゃんと相手を見てるなら、言葉より先に、近づき方があるよね」 「……あるな」 優真はその一言に妙に引っかかった。柚菜の横顔が、いつもより近く見える。さっきまで机の上の勝負だったはずなのに、気づけば自分のほうが勝手に意識を深めていた。 「たとえば、並んで歩くとか」 「近くにいるだけでも、わかることあるし」 「うん」 柚菜はそこで言葉を切り、なぜか少しだけ目を伏せた。優真も続ける言葉を失う。経験がないからこそ、知ったふうに語れば語るほど、空洞が目立つ。その空洞の形を、相手にだけは見抜かれている気がした。 「……なんか、変だな」 優真がつぶやくと、柚菜はすぐに顔を上げた。 「今さら?」 「いや、そうじゃなくて」 言いかけて、やめる。変なのは、恋愛の知識を並べるほど、柚菜のことばかり気になっていく自分だった。 柚菜も同じだったのか、視線を泳がせたあと、いつもの調子で笑おうとする。 「まあ、勝負だからね」 「だな」 そう言ってみても、もう前のようには軽くならない。ぎこちなさが増すたび、相手の表情に敏感になっていく。優真は、柚菜が少し頬を赤くした理由を考えてしまい、柚菜は、優真がやけに真面目な顔をする理由を探してしまう。 答えはまだ出ない。ただ、相手を意識している自分だけが、やけに鮮明になっていった。

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