「……ねえ」 柚菜が、少しだけ言いづらそうに口を開いた。教室のざわめきはいつも通りなのに、その声だけが妙に近い。 「何だよ」 優真はいつもの調子で返したつもりだったが、返事の最後がわずかに揺れた。 柚菜は机の端を指でなぞりながら、視線を上げないまま続ける。 「さっきから思ってたんだけど、私たちの話、ちょっとおかしくない?」 「おかしいって、何が」 「だって、恋人いるって言いながら、話してる内容、全部どこかで見たような感じじゃん」 優真は一瞬、息を止めた。鋭い。けれど、完全に崩れるほどではない。 「たとえば?」 「たとえばって……」 柚菜はそこで言葉を切り、困ったように笑った。笑ってしまったことに自分でも気づいたのか、すぐにむっとした顔になる。 「限定メニューとか、返事が早いとか、距離の詰め方とか。全部、何かを説明してるだけで、実感ないっていうか」 「それは」 優真は言いかけて、口元をゆがめた。反論しようにも、核心を外せない。 「たしかに、ちょっと薄いかもな」 「ちょっと、じゃないでしょ」 「でも、あれだ。雰囲気って大事だし」 「雰囲気で押し切るな」 柚菜がようやく顔を上げた。責める目つきのはずなのに、少しだけ安心したみたいに見えるのが悔しい。 優真は肩をすくめて、わざと大げさに笑った。 「だってさ、恋人の話って、妙に細かくすると逆に怪しいじゃん。だからぼかしてるんだよ」 「それ、言い訳としては上手いけど」 「上手いだろ」 「上手くない」 言い合いはしているのに、さっきまでのような張り詰めた感じが少しだけほどけていた。柚菜は小さく息を吐いて、机に頬杖をつく。 「私も、ちょっと変だなって思ってた」 「今さら正直かよ」 「優真が茶化すから言いやすいだけ」 「茶化してるって自覚はあるんだ」 「あるよ。だから余計に、苦しかった」 その一言に、優真は何も返せなかった。柚菜もすぐには続けず、ただ目をそらす。ほんの少しだけ本音が混じった空気が、二人の間に落ちる。 「……でもさ」 やがて優真が口を開いた。 「おかしいって言っても、今までよりは話しやすくなった気がする」 柚菜は驚いたように目を瞬かせ、それから短く笑った。 「なにそれ」 「知らないふり、ずっと疲れるんだよ」 「それは、わかる」 柚菜の声が、さっきより静かだった。優真はその静けさが嫌いじゃないと気づいて、少しだけ戸惑う。嘘を重ねているはずなのに、相手が矛盾を口にした瞬間だけ、変に素直になれる。そんな自分たちが、妙におかしい。 「じゃあ、次の勝負はどうするの」 柚菜が少しだけ意地悪く聞く。 優真は苦笑した。 「続ける前提なんだ」 「だって、ここでやめたら変でしょ」 「十分変だよ、最初から」 「うるさい」 そう返しながらも、柚菜の声にはもう尖りがなかった。優真もまた、笑いながら机の上で指を組む。 率直な空気は、まだ頼りない。けれど、今までの見栄だけの会話よりは、ずっと近い場所に落ちてきていた。
幼馴染の見栄恋
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