「次、どうする?」 優真がそう聞くと、柚菜は少しだけ目を細めた。 「まだ続ける気なんだ」 「そっちが言い出したんだろ」 「まあね」 短い返事のあと、二人の間にふっと笑いが落ちた。さっきまでの張り詰めた空気が、笑ってしまった拍子にするりとほどける。なのに、ほどけたはずなのに、妙に心臓だけが落ち着かない。 柚菜は机に頬杖をついたまま、優真を見上げた。 「ねえ、優真」 「何」 「私たちって、ちょっと特別すぎない?」 その言い方は、からかい半分みたいで、でも逃げ道のないほど真っ直ぐだった。優真は返事を探したが、すぐには出てこない。幼馴染だから当たり前だと笑い飛ばせるはずなのに、今はその一言で片づけるには、近すぎる気がした。 特別。口にしてしまうと、今まで当たり前だったものの輪郭が急にくっきりする。放課後に顔を合わせれば、勝手に始まる言い合い。何を言っても通じてしまう癖。冗談の形をしていないと照れくさくて言えない距離。全部、柚菜だから成り立っている。 「まあ、幼馴染だし」 優真がそう言うと、柚菜は小さく笑った。 「それだけ?」 「それだけっていうか……それが大きいんだろ」 言いながら、優真は妙な違和感に気づく。幼馴染という言葉は、安心する。何を言っても許される気がするし、黙っていても隣にいられる。けれど、その安心の奥に、さっきからずっと知らない熱が混じっていた。 柚菜がふいに視線を落とす。 「安心するのは、本当なんだけどね」 その声は、いつもの軽口より少しだけ柔らかかった。 「でも、さっきから変なんだよ」 「何が」 「優真の顔見ると、変に意識する」 その一言で、優真の胸がひどく跳ねた。柚菜も、自分で言っておいて気まずくなったのか、耳まで赤い。今さら引き返せる空気ではないのに、二人とも次の言葉を見つけられない。 恋愛対象。頭のどこかで、その言葉だけが妙に浮いた。見栄を張るために並べてきた恋人の話は嘘だったはずなのに、嘘を重ねた先で本当に意識する相手が、目の前にいる。しかもそれが、何年も当たり前に隣にいた柚菜だなんて。 「……おかしいな」 優真がぽつりとこぼすと、柚菜はすぐに顔を上げた。 「今さら?」 「いや、そうじゃなくて」 言いかけてやめる。おかしいのは、柚菜を見たときだけ少しだけ呼吸が変わる自分だ。柚菜も同じことを思っているのか、じっと優真の顔を見つめたまま、困ったみたいに笑った。 「でも、嫌じゃない」 その言葉に、優真は返せなかった。嫌じゃないどころか、むしろ目を逸らすほうが難しい。だから余計に、戸惑う。幼馴染としての安心感が、恋愛対象としての意識に少しずつ塗り替えられていくみたいで。 柚菜はそんな優真の沈黙を見て、くすりと笑う。 「なに、その顔」 「そっちこそ」 「私も、変だなって思ってるだけ」 笑い合ったはずなのに、もう前みたいな軽さではない。けれど、その気まずささえ、二人にはどこか心地よかった。長年の距離感が、ほんの少しだけ崩れていく音を、互いに聞いてしまったからだ。 教室のざわめきは相変わらずだった。けれど、二人の間だけは、さっきよりずっと静かで、ずっと熱かった。
幼馴染の見栄恋
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