次の休み時間になると、心菜はようやく桜奈と結莉を机の近くに呼び寄せた。教室のざわめきに紛れるように三人で肩を寄せると、心菜は一度だけ息を吸って、低い声で打ち明けた。 「実は、着替えの下着、忘れた……」 言い終えた瞬間、耳まで熱くなる。桜奈は目を丸くし、結莉は小さく瞬きをしたあと、すぐに表情を和らげた。 「そ、それは大変だね」 「昨日の準備で抜けたのかな。落ち着いて考えよう」 結莉がそう言ってくれると、心菜の肩から少しだけ力が抜けた。桜奈は机に指先を置きながら、真剣な顔で候補を並べる。 「体操服の予備、使えるんじゃない? でも、誰かに借りると目立つか」 「保健室なら、何か貸してもらえるかもしれない」 「でも行く理由を考えないとね」 三人は顔を寄せたまま、小さな声で作戦を練った。心菜は何度も頷きながら、できるだけ自然に、できるだけ目立たずに済む方法を探す。体操服の上着を腰に巻けばどうか、休み時間のうちに保健室へ向かえばいいのか、そんな案が次々と出るたびに、現実味と恥ずかしさが交互に胸を刺した。 だが、結論が出かけたところで、教室の前から先生に呼ばれた。心菜の名を含んだ短い呼び声に、三人の会話はぱたりと止まる。心菜は思わず背筋を伸ばし、桜奈と結莉と顔を見合わせた。 「今?」 「うん、ちょっと来てって」 仕方なく立ち上がった心菜が足元を気にしながら廊下へ出ると、今度は戻り際に別の先生からも声をかけられた。連続する呼び出しに、せっかく温めた作戦が机の上に置き去りになる。教室へ戻った心菜は、二人に小さく手を振るしかなかった。 桜奈が短くうなずき、結莉は困ったように笑う。 「また戻ったら続き、やろう」 その言葉に救われた気がして、心菜は息を整えた。次こそ、落ち着いて動けるだろうか。そう思った矢先、廊下の向こうでまた別の声が弾み、心菜は足を止めた。
忘れ物より大事な約束
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