昼休みが終わり、午後の授業に向かう教室へ戻ろうとした舞は、ふと、教材を借りるために特別棟へ向かった友人を思い出した。 「渡り廊下のところで会えるかも」 そう考え、舞は階段へと足を向けた。普段なら使わない裏階段は、人が少なく静かだ。一歩、また一歩と階段を上るたび、スカートの中を通る空気が太ももの内側を撫で、背徳的な感覚を思い出させる。 「やだ、また意識しちゃう」 首を振って考えを追い払おうとした、その時だった。 「あ、やべ。次の授業遅れる」 「マジで? 走れよ」 下の階から、男子生徒たちの話し声が聞こえてきた。舞の心臓が跳ねる。階段という場所。上から下を見下ろすのは平気でも、下から上を見上げられる位置に立つこと。スカートの中が丸見えになる角度。 「どうしよう」 舞は咄嗟に壁側へと身を寄せた。冷たいコンクリートの壁に背中を預け、スカートの裾を両手で押さえる。心臓が早鐘を打つ。 「入ってくるの、何人くらいかな」 足音からして、三、四人はいそうだ。男子生徒たちの笑い声が近づいてくる。 「お、おい、あれ舞じゃね?」 「え、どこ?」 舞は息を呑んだ。顔を見られたくない。けれど、逃げることもできない。 「ああ、いたいた。何やってんだろ」 「壁に張り付いてないで降りてくればいいのに」 男子生徒たちが階段を上ってくる。舞は視線を足元に落とし、必死にスカートの裾を握りしめた。 「大丈夫、見えない。この角度なら、見えないはず」 そう自分に言い聞かせた瞬間、窓の外から強い風が吹き込んできた。 「きゃっ」 スカートの裾がふわりと持ち上がる。舞は慌てて両手で押さえ込んだが、一瞬の隙間に、太ももの肌が空気に触れた気がした。 「今の、見えた?」 男子生徒の一人が立ち止まり、不思議そうな顔で舞を見上げた。 「舞? 何か隠してんの?」 冷や汗が背筋を伝う。 「何でもない。ただ、ちょっと……風が冷たくて」 震える声で答えるのが精一杯だった。 「そっか。風強いもんな」 男子生徒たちは特に気にする様子もなく、舞の脇を通り過ぎていった。 「助かった」 舞は壁に寄りかかったまま、大きく息を吐いた。けれど、スカートの中の秘所が、恐怖とは違う熱を帯びていることに気づき、顔が火照るのを感じていた。
忘れ物より大事な約束
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