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地下のトモダチ

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3章 / 全10

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遥奈はその夜も、誰より先に自室の戸を閉めた。薄い灯りの下、小瓶の中にいた生き物は、昨日までよりもはっきりと形を持っている。つるりとした輪郭は、ただの影では済まされないほどに存在感を増していた。遥奈はしばらく眺め、それからふと、声に出してみたくなった。 「ずっと、そのままでは呼びづらいわね」 独り言のはずだった。けれど生き物は、ぴたりと動きを止めたあと、柔らかな体をひとすじ揺らした。その反応が、返事のように思えてしまう。 「名前があったほうがいいのかしら。そうね……」 考え込むうち、胸の奥で、不思議と一つの音が浮かんだ。よく晴れた日に差し込む光のような、どこかあたたかな響きだ。 「ユウセイ」 呼んだ瞬間、小さな体が大きく波打った。遥奈は目を見開き、思わず笑みをこぼす。気に入ったのかどうか、それは分からない。だが、その名を口にしただけで、部屋の空気が少しだけ変わった気がした。 それからというもの、遥奈は寝台のそばに小瓶を置くようになった。眠る前に戸締まりを確かめ、灯りを落としてからも、つい瓶へ目をやってしまう。ユウセイは夜のあいだ静かに身を寄せ、彼女が身じろぎすると、待っていたと言わんばかりに揺れた。朝になると、遥奈が起き出す気配に反応して、瓶の内側で小さく弾む。 食事の席では平静を装うのに苦労した。目の前の皿よりも、胸元に隠した秘密のほうが気になってしまう。使用人が来る足音が近づくたび、遥奈は息をひそめ、瓶に布をかける。少しでも気を抜けば、そこにいる存在へ意識が持っていかれるのだ。 だが、面倒でもあったはずの隠しごとは、いつしか習慣になっていた。夕食を終えて部屋へ戻ると、まずユウセイの無事を確かめる。彼女の指先が瓶に触れると、内側から応えるようにふわりと動く。そのたび、今日も自分はここに戻ってきたのだと思えた。 数日が過ぎるころには、小瓶の中だけで収まらないほどに育っていた。遥奈が寝台へ腰を下ろすと、ユウセイはその足元へ、まるでそこが決まった居場所だと知っているように寄ってくる。眠る前の短い時間、彼は彼女の気配を追い、彼女は彼の動きを目で追った。互いに何かを言葉にはしないのに、ひとつ部屋にいるだけで、心の端が静かに整っていく。 遥奈はふと思う。自分の日常の中心に、こんなにも小さくて、けれど確かな存在がいるのだと。寝台のそばでゆらめくユウセイを見つめながら、彼女はそっと手を伸ばした。指先に触れた感触は、まだ頼りないのに、もう昨日のものとは違っている。 「おやすみ、ユウセイ」 その名を口にすると、暗がりの中で彼はゆっくりと身を丸めた。遥奈は目を閉じる直前まで、その気配を確かめていた。

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