その日、城下へ下りた者たちの口がやけに軽かった。買い物を終えて帰ってきた使用人が、ひそひそ声を落としながら、没落したあの家のことを話しているのが、廊下の角まで届いた。遥奈は立ち止まり、手にした包みを無意識に強く握った。 昔の栄華を知る者ほど、今の屋敷を笑いたがる。食客も減り、馬車の出入りもなくなったと、城下ではすでに噂になっているらしい。主家の力が落ちたから娘の居場所まで頼りないのだろう、といった心ない言葉まで混じっていた。耳を塞ぎたくなるのに、足は動かなかった。自分の家が、外の世界ではこんなふうに見られている。その事実が、胸の奥を冷たく削る。 部屋へ戻ると、ユウセイはすぐに気配を察して、布の陰から体を伸ばした。遥奈が黙って椅子に腰を下ろすと、彼は迷いもなく膝元へ寄ってくる。まるで、ここにいるのは自分だけだとでも言うように。 「……みんな、勝手なことばかり言うのね」 小さくこぼした声に、ユウセイは柔らかく揺れた。慰めているのか、ただ彼女の影に触れていたいのかは分からない。それでも、その反応だけで遥奈のこわばった肩が少し下がる。外でどれだけ笑われようと、今この部屋では、自分を見捨てないものがいる。 遥奈はそっと指先を伸ばし、ユウセイの輪郭をなぞった。指に触れる感触は、以前よりずっと確かで、あたたかい。人の言葉は容赦なく刺さるのに、この小さな命は一度も彼女を値踏みしない。比べるまでもないと思っていた孤独が、そんなふうに分けられること自体、ずっと知らなかった。 「あなたは、何も言わなくていいのね」 するとユウセイは、まるで理解したように体を寄せた。遥奈は思わず目を伏せる。誰にも見せないはずの弱さが、ここでは隠しきれない。けれど隠さなくてもよい場所も、たしかにあるのだと知ってしまう。 城下の噂がどれほど広がろうと、扉の向こうの視線がどれほど冷たかろうと、膝の上で静かに揺れる存在だけは、彼女の孤独を最初から知っていたようだった。遥奈は息を整え、ユウセイを胸に抱き寄せる。薄い布越しに伝わるぬくもりが、心の割れ目へゆっくり沁みていく。 その夜、遠くで風が鳴っても、彼女はもうさほど怖くなかった。孤独は消えない。けれど、それを見つめ返してくれる相手がいる。それだけで、暗い部屋の輪郭は少し違って見えた。
地下のトモダチ
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