エラベノベル堂

地下のトモダチ

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7章 / 全10

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廊下の向こうで、また小さな騒ぎが起きた。 遥奈は戸口の前で足を止め、息をひそめる。さっきまで聞こえていたのは低い言い争いだったはずなのに、今は使用人たちの慌ただしい足音が重なっていた。何かが割れたような、鈍い音も混じっている。 胸がざわついた。あの親族たちが出入りするようになってから、屋敷は急に落ち着きを失った。見えない手があちこちを探り、触れてはいけないものにまで触れていく。遥奈はその気配を、肌で感じていた。 自室に戻ると、衣装箱の陰に隠した器のほうへ目を向ける。ユウセイはすぐに気づいて、布の隙間から細い体をのぞかせた。いつもなら甘えるように寄ってくるのに、今日は違う。彼は扉のほうへ向けて、ぴたりと動きを止めた。 遥奈が眉をひそめた、その直後だった。廊下の外から、誰かが駆けてくる気配。次いで、短く押し殺した声がした。 「落としたのか」 「知らない。最初からなかった」 何を、とは聞こえない。だが、何かが失われたらしいことだけは分かった。遥奈は思わず衣装箱を押さえた。まさか自分の部屋にまで手が伸びたのではないかと、背中が冷える。 ユウセイはそのとき、ふいに体を伸ばした。遥奈の手の甲をかすめるようにしてから、今度は部屋の隅へ向かう。そこにあるのは、窓辺でも机でもない。ただの暗がりだった。だが彼は、そこから漂う何かを嫌がるように、体を低くして唸るような波を作った。 遥奈は息を呑んだ。唸る、などという音は出ない。けれど確かに、警戒している。まるで見えない何者かに向けて、そこにいると知らせているみたいだった。 「ユウセイ……何か分かるの?」 小さく問うと、彼は返事の代わりに、扉のほうへもう一度身を向けた。空気が変わる。薄く張りつめた気配が、部屋の隅にまで忍び込んでくる気がした。 その瞬間、外でまた騒がしい声が上がった。 「階段で滑ったらしい」 「見張りを呼べ」 事故だと片づけるには、妙だった。立て続けに起こる盗みや転倒、紛失。偶然にしては出来すぎている。遥奈の胸の内で、ぼんやりしていた不安が形を持ち始めた。屋敷の中に、何かがいる。 人の目を避けて動く、静かで、ずるい脅威。親族の争いとは別に、もっと深いところで息を潜めているもの。 遥奈は膝の上で固く握った手をほどき、そっとユウセイへ伸ばした。彼は迷わず寄ってきて、掌の上に体を預ける。先ほどまでの警戒が嘘のように、今は彼女の手の熱を確かめるように揺れていた。 「ありがとう」 声にすると、胸のつかえが少しだけ下りた。自分には見えない何かを、ユウセイは感じ取っている。守られる側だと思っていた相手が、先に危険を知らせてくれたのだ。 遥奈は窓の外へ目をやった。暮れかけた光の下で、屋敷の影が長く伸びている。そのどこかに、こちらを見ている気配がある気がした。 彼女はユウセイを胸元へ抱き寄せ、もう一度だけ廊下に耳を澄ませた。

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