エラベノベル堂

地下のトモダチ

18+ NSFW

小説ID: cmp0ur9ss001g01oem57elqmt

6章 / 全10

翌朝、花梨は重い足取りで食堂へ向かった。昨夜の生物との情事の余韻がまだ身体に残っているような気がして、頬が熱くなる。食堂の扉を開けると、両親はすでに長卓の端に座っていた。父親の顔色は暗く、母親は俯いたままである。 「お父様、お母様、おはようございます」 花梨が挨拶をしても、返事はない。不安が胸をよぎる。 「座りなさい」 父親の低い声に、花梨はおそるおそる椅子に座った。使用人が置いていった冷めたスープが、白い器の中で揺れている。 「お前に話がある」 父親は花梨を真っ直ぐに見つけた。 「実はな、借金のめどがついた」 「本当ですか?それはよかった……」 花梨が安堵の息を漏らそうとした瞬間、父親は言葉を継いだ。 「条件がある。近隣のベルトラン領主が、お前を妻に迎えたいと言ってきたのだ」 花梨は息を呑んだ。その名前は知っている。残虐で冷徹、若くして三人の妻を亡くし、いずれも不審な死を遂げたという噂の男だ。 「まさか……お父様、私をあのような男に嫁がせるおつもりですか?」 花梨の声が震える。 「借金が帳消しになるのだ。お前のためでもある」 「私のためですって?私の人生を売る権利が、お父様にあるというのですか!」 花梨は立ち上がり、椅子が床を擦って大きな音を立てた。 「お前はこの家の娘だ。家のために尽くすのは当然のことだろう」 母親は沈黙したまま、何も言わない。花梨は深い無力感に襲われた。この両親にとって、自分は商品に過ぎないのだ。 「わかりました……部屋に戻ります」 花梨は食堂を逃げ出した。廊下を走り、自室に駆け込む。扉に背中を預け、ずるずると床に座り込んだ。涙があふれ、止まらない。 「どうして……どうして私ばかりがこんな目に……」 夜が訪れ、花梨は寝室で泣き崩れていた。枕を濡らす涙が乾くことを知らない。逃げる場所も、頼る人もいない。絶望の淵で、闇の中から何かが蠢いた。青い影がベッドの陰から現れ、花梨の枕元に近づいてくる。 「あなた……」 生物は静かに彼女の頬に触れ、涙を舐め取った。ぬめる感触が、不思議と優しい。一本の触手が涙を拭い、もう一本が頬を撫でる。 「私のそばにいてくれるのね……」 触手は次々と伸び、花梨の身体を包み込んでいく。守るような、抱擁のような温かさ。 「あなたがいれば……私は一人じゃない」 花梨は生物の蠢きに身を委ね、いつしか安らぎの中へと落ちていった。

6章 / 全10

TOPへ