優馬はスマートフォンを片手に、机の端で何度も画面を見直した。菜緒が片付けを続けている気配は、扉の向こうからかすかに聞こえる。だが今は、その手際よりも、胸の奥に引っかかった違和感のほうが大きかった。登録書類を開くと、名前や連絡先の並びの中に、どうにも曖昧な箇所がある。確認のために代行会社へ電話をかけると、受話口の向こうの担当者は、最初こそ整った応対をしていたが、菜緒の登録内容の説明になると、急に言葉を選び始めた。 「ええと、その、年齢確認の書類については……」 歯切れの悪い返事に、優馬の眉間が自然と寄る。必要なはずの情報が、まるで薄い紙の裏に隠されたまま出てこない。生年月日を示す記載も、提出書類の扱いも、どれも確実とは言いがたかった。 「曖昧って、どういうことですか」 問い返すと、電話口は一瞬だけ沈黙した。 「正式な確認が、少し取り切れていない状態でして……こちらでも再確認中です」 再確認中。その言い方は、あまりにもやわらかい。優馬は奥歯を噛み、視線を窓の外へ逃がした。都心の明かりはきれいなのに、今は妙に冷たく見える。菜緒がやたらと大人びた口調を使っていた理由が、別の形をして胸の中でつながり始めていた。背伸びをしないと、相手にされないと思い込んでいたのではないか。気配りを装い、言葉を飾り、少しでも大人に見せようとしていたのではないか。 「こちらの不備なら、訂正が必要ですよね」 優馬が静かに言うと、担当者は曖昧に了承した。だがその声は、最後までどこか逃げ腰だった。通話を切ったあと、画面の暗がりに自分の顔が映る。そこにあるのは怒りよりも、疑いを抱えたまま立ち止まる表情だった。 部屋の向こうでは、菜緒が棚を整える小さな音がしている。あの不自然な丁寧さも、妙に大げさな言い回しも、全部が嘘というより、何かを隠すための鎧だったのかもしれない。優馬はスマートフォンを握り直し、まだ切れない不信感の先にあるものを、ゆっくり探り始めた。
背伸び家事代行
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