エラベノベル堂

背伸び家事代行

全年齢

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8章 / 全10

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昼の公園は、思ったより人の声が少なかった。ベンチのそばで風に揺れる葉を見ながら、優馬は腕を組んだまま菜緒を待っていた。呼び出したのは自分なのに、いざ向き合うとなると胸の内の怒りだけでは足りず、どう言えばいいのかが定まらない。菜緒は少し離れた場所に立ち、いつもより小さく見えた。さっきまでの大げさな丁寧さは消え、代わりに指先がそわそわと落ち着かない。 「なぜ年齢を偽ったんですか」 優馬が切り出すと、菜緒は肩をびくりとさせた。けれど、逃げるようには視線をそらさなかった。 「……見た目で断られるのが、怖かったんです」 声は思っていたよりずっと低く、震えていた。 「若く見えると、それだけで頼りないって思われるかもしれないって。だから、大人に見える言い方をすれば、仕事を任せてもらえるかなって」 言い訳の形をしているのに、言葉の端々は不器用だった。うまく整えたはずの仮面が、今はもう剥がれかけている。優馬は息を止めたまま、菜緒の顔を見た。派手に取り繕う人間なら、もっと滑らかにごまかせただろう。だが彼女は、ただ断られたくなくて、必死に背伸びをしていただけなのかもしれない。 「だからって、年齢をごまかしていい理由にはならないでしょう」 自分でも鋭すぎると思う声が出た。菜緒は小さくうなずく。 「はい。よくなかったです」 その素直さが、かえって優馬の怒りを鈍らせた。謝られて終わる話ではない。だが、目の前の彼女が悪意だけでやったわけではないことは、もう分かってしまった。家事が下手なのも、妙な言い回しも、全部が図々しさではなく、断られる怖さを隠すための無理だったのだと思うと、胸の奥に別の痛みが差し込む。 菜緒は両手をぎゅっと握りしめた。 「ちゃんとしなきゃって思うほど、空回りして、余計に変になって……でも、失敗したら次はない気がして」 その言葉に、優馬はようやく視線を逸らした。怒りはまだ残っている。だがそれより先に、彼女がこの数日ずっと背中に何を載せていたのかを知ってしまった気がした。単なる悪ふざけなら、こんな顔はしない。 ベンチの影が、二人の間に細く伸びる。優馬は答えを急がず、しばらく黙って公園の砂を見つめた。風が吹いて、菜緒の髪を少しだけ揺らす。その横顔には、まだ言い足りない不安が残っていた。

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