エラベノベル堂

願いは旧制服

全年齢

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4章 / 全10

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夕方の光が、住宅街の屋根を斜めに照らしていた。美樹は校門前からの帰り道を終え、家の玄関先で靴を揃えながら、正樹の顔を思い返していた。あれほど真剣に答案を差し出されれば、もう軽い約束では済まない。扉を開けたまま振り返ると、少し遅れて来た正樹が、廊下の端で立ち止まった。 「で、願いって、もう考えてあるの」 問いかけると、正樹は妙に姿勢を正した。さっきまで校門前にあった緊張が、今度は別の熱を帯びているように見える。けれど、言いにくそうに目を逸らしたまま、それでも逃げる気はないらしかった。 「はい。ちょっと、恥ずかしいんですけど」 「ここまで来て、いまさらよ」 促されて、正樹は喉の奥で息を整えた。 「美樹さんの、高校の頃の制服と、当時使ってた水着を、見てみたいです」 一瞬、玄関先の空気が止まった。美樹は自分の耳を疑うように瞬きを繰り返し、それから小さく息を漏らした。想像していたよりずっと具体的で、ずっと昔の自分に触れる願いだった。軽い冗談でかわすには、正樹の表情が真面目すぎる。 「……本気なの」 正樹は真っ赤になりながら、こくりとうなずいた。 「はい。変なお願いだってわかってます。でも、ずっと見守ってもらってきたから、ちゃんと覚えてる美樹さんを見たいんです」 その言い方に、美樹は言葉を失った。驚きはある。戸惑いもある。けれど、テストの条件として口にした約束を、自分から折るわけにはいかなかった。何より、正樹がここまで頑張ったのは事実だ。 「……約束は約束ね」 そう言うと、正樹の肩がわずかに下がった。安堵とも緊張ともつかない息を吐き、美樹は靴を脱いで奥へ向かった。廊下を抜け、押し入れの前で立ち止まる。しばらく開けていなかった奥には、学生時代の品をしまった箱があるはずだった。 ふすまを開けると、古い木の匂いと、しまい込まれた布の気配が静かに広がった。美樹は箱を一つずつ手前に寄せ、記憶の底に沈んでいた頃の自分を探し始める。背後では、正樹が居間の入口に立ったまま、何も言わずに見守っている気配がした。部屋全体に、妙に静かな時間が落ちていった。

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