エラベノベル堂

願いは旧制服

全年齢

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5章 / 全10

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夜の気配が廊下の隅まで沈みこんでいた。美樹は押し入れから見つけた箱を寝室に運び、ふたを開けたまま少しだけ手を止めた。畳まれた布の端に触れると、学生だったころの空気がそのまま閉じ込められているようで、胸の奥がくすぐったくなる。正樹は扉の外寄りに立ち、気まずさを隠すように視線を落としていたが、逃げるつもりはないらしい。 「本当に、これを着るの」 美樹が笑って言うと、正樹は耳まで赤くしながらうなずいた。 「だって、約束ですから」 その返事に苦笑しつつ、美樹は制服を取り上げた。久しぶりに広げたそれは、記憶の中より少しだけ小さく見える。続いて水着も取り出し、思わず肩をすくめた。こんなものまで残っていたのかと呆れながらも、捨てられなかった自分に少しだけ納得する。 着替えを済ませて鏡の前に立つと、懐かしさより先に、今の体つきの違いが目についてしまった。見慣れたはずの形なのに、どこか窮屈で、布が体に無理をしているのがわかる。美樹は思わず笑い、すぐに赤くなった。 「……これは、ちょっと」 背後で正樹が息を呑む気配がした。 「似合ってますよ」 「本当にそう思ってる?」 「思ってます。でも、なんというか、その」 言葉を探している間に、美樹は袖口を引っ張った。肩も胸元も、どこもかしこも昔より余裕がない。鏡に映る自分を見直しながら、彼女は観念したように小さくため息をついた。 「若いころのままのつもりだったけど、体は正直ね」 正樹は慌てて目をそらしたあと、気を利かせたつもりなのか、わざとらしく咳払いした。 「でも、すごく……えっと、懐かしい感じです」 「その言い方、余計に落ち着かないわ」 美樹が睨むと、正樹はばつが悪そうに笑った。その笑い声に少しだけ張りつめた空気がほどける。けれど次の瞬間、背中側の布がきゅっと引っ張られる感覚に、美樹は肩を跳ねさせた。 「ちょっと、きついかも」 そう漏らした声は、自分でも情けないほど慌てていた。正樹が一歩近づきかけて、すぐに止まる。 「大丈夫ですか」 「大丈夫じゃないかも。これ、想像以上に窮屈」 美樹は片手で裾を押さえ、鏡と正樹を交互に見た。冗談めかした空気のまま進めるつもりだったのに、思った以上に着心地が厳しい。胸の奥で変な汗がにじみ、笑うべきか焦るべきかもわからなくなる。 正樹もまた、どう反応していいかわからず立ち尽くしていた。 寝室には、妙に間の抜けた沈黙だけが残る。美樹は引きつった笑みを浮かべたまま袖をつまみ、正樹は目のやり場を失って天井の一点を見つめている。次に何か言わなければならないのに、どちらも最初のひと言を見つけられず、気まずさだけが静かに膨らんでいった。

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