エラベノベル堂

願いは旧制服

全年齢

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6章 / 全10

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正樹は、息を呑んだまま美樹を見つめていた。見慣れたはずの顔なのに、学生時代の服に包まれた途端、どこか別人のように見えてしまう。その変化が妙に眩しくて、同時に笑ってしまいそうになる。 「……そんなに見ないでくれる?」 美樹が片手で袖を引きながら言うと、正樹ははっとして背筋を伸ばした。 「すみません。でも、すごく似合ってて」 「似合ってるのに、こんなに苦しいのが納得いかないのよ」 彼女は胸元を軽く押さえ、苦笑した。鏡の中では、確かに昔の自分の面影がある。けれど今の体には少し無理をしていて、そこが余計に恥ずかしかった。 「若いころの記憶って、勝手に美化されるものなのね」 「でも、あの頃の美樹さんって感じはします」 「それ、褒めてるのかしら」 「褒めてます」 正樹は真剣に言ったが、直後に視線を逸らしたので、説得力が半分ほど消えた。美樹は吹き出しそうになり、肩を震わせる。 「もう、そんな顔しないで。こっちまで変な気分になるじゃない」 「変な気分って、どんなですか」 「聞き返さないの」 二人のやり取りは、気まずさをごまかすためのものなのに、妙に大げさになっていく。美樹が睨めば、正樹は慌てて首を振り、今度は彼女が笑いをこらえきれなくなる。窮屈さに顔を赤くしたまま、何とか体勢を整えようとする美樹の姿は、少し情けなくて、でもどこか愛嬌があった。 「これ、もう少し余裕があればいいのに」 「昔は平気だったんですか」 「平気だったから残ってたのよ。でも、残ってた理由は今わかったわ」 正樹が首を傾げると、美樹はため息まじりに笑った。 「そのうち処分しようと思って忘れてたの。つまり、今日のために眠ってたわけじゃない」 「でも、ちゃんと見つかりましたね」 「ええ。あなたの願いが、こんなに面倒とは思わなかったけど」 言い終えた、そのときだった。 家の外で、かすかな物音がした。最初は風かと思うほど小さかったのに、続けて何かが玄関先をかすめるような気配が届く。二人とも同時に口をつぐんだ。 美樹の表情から、さっきまでの笑みがすっと消える。 「今の、聞こえた?」 正樹も目を丸くしたまま、こくりとうなずいた。 「……外、ですよね」 静けさが、急に重くなった。寝室の空気がぴたりと止まり、窓の向こうの闇まで意識される。美樹は慌てて袖を直し、正樹は居場所を探すように一歩だけ下がる。 「ちょっと、誰かいるのかしら」 「まさか、見られてませんよね」 その言葉に、美樹は返事をしなかった。否定できない不安だけが、二人の間に残る。物音の正体を確かめなければならないのに、今の姿のまま外へ出るのはためらわれた。家の外には、まだ何かがいる気配がする。美樹は唇を結び、正樹もまた息を殺したまま、次の音を待っていた。

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