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願いは旧制服

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7章 / 全10

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美樹が息を殺したまま耳を澄ますと、今度は階段のきしむ音がした。外じゃない。家の中だと気づいた瞬間、正樹の顔色がさっと変わる。 「……誰か帰ってきた」 それはほとんど声にならなかった。だが次の瞬間、台所の方から控えめに扉の開く音がして、暗い廊下に人の気配が満ちる。美樹の喉がひきつった。まさか、こんな時間に。 玄関の明かりがつき、見慣れた靴音がまっすぐこちらへ近づいてくる。美樹の夫だった。正樹は完全に固まり、言い訳の言葉を探すように口を開きかけては閉じる。窮屈な制服姿の美樹と、そこに立ち尽くす高校生。説明の順番を間違えれば、どこからどう見てもまずい状況だった。 「ち、ちがうの、これは」 美樹が慌てて前へ出る。声が上ずり、自分でも何を先に言うべきか分からない。それでも、正樹を庇うように少しだけ体をずらした。 「正樹くんは、その、勉強の約束で」 「美樹さん、俺が」 正樹も同時に口を挟み、二人の言葉がぶつかってさらに空気が揺れる。夫の視線が二人の間を静かに往復した。怒鳴りもしない。ただ、状況を確かめるように、ゆっくりと目を細める。 「落ち着きなさい。まず、何が起きてる」 その低い声に、美樹はかえって背筋を伸ばした。取り繕うつもりが、余計に取り繕っているのが自分でもわかる。正樹は顔を真っ赤にしたまま、視線を床に落とした。夫はしばらく沈黙し、それから美樹の服装と正樹の様子をもう一度見比べる。 「……説明は、あとでいい。今はここで騒がない方がよさそうだな」 意外なほど冷静な言葉だった。叱責を覚悟していた美樹は、思わず息を呑む。正樹も、はっと顔を上げた。 夫は玄関先の明かりを背にしたまま、静かに二人へ視線を向ける。 「とにかく、何をしていたのか、順番に聞こう」 その声には怒りよりも、確かめようとする慎重さがあった。美樹は唇を引き結び、正樹はどう答えるべきか迷ったまま立ち尽くす。張り詰めた空気だけが、深夜の台所に長く残っていた。

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