床下の震えは、ゆっくりとした呼吸のように広がったかと思うと、次の瞬間には石壁をかすかに鳴らした。私は装置の前で身を低くしたまま、喉の奥の乾きを飲み込む。見えない何かが、こちらの迷いを嗅ぎつけている。ゴブリンたちはすでに左右へ散り、狭い前室の出口を塞ぐように構えていたが、通路の奥から伸びてきた影は、それよりずっと早かった。 濡れた縄がうねるみたいな触手が、天井の隙間をこじ開けるように飛び込んでくる。反射的に私は息を止めた。次の瞬間、金属がひしゃげ、封印装置の一部が叩き壊された。火花のような微かな光が散り、古い仕掛けの輪郭が崩れる。あまりに唐突で、あまりに乱暴で、舞台の小道具が本物の凶器に変わったみたいだった。 ゴブリンの一体が悲鳴めいた声を上げる。もう一体は仲間を引こうとして、伸びた触手に足元を払われた。私は立ち上がりかけて、すぐに止めた。真正面から怒鳴っても、相手は止まらない。なら、止まる理由を作るしかない。 私は壊れた装置の残骸を指さし、あえて大きく肩をすくめた。そこにいる、そこにしか来られない、と見せつける。触手の先が一斉にこちらへ向く。見られた。なら、次は視線をずらす。 私は一歩だけ横へ滑り、石柱の陰に体を寄せた。わざと遅れて、挑発するように手を広げる。ほら、届かない。そんな芝居だ。すると、先頭の触手が怒ったように伸び、私のいた場所を叩きつけた。石片が跳ねる。その勢いに合わせて、私は身を低くしたまま反対側へ指を振る。来るなら、こっち。離れた通路の方へ。 相手は単純に追ってくるだけではなかった。二本、三本と枝分かれした先端が、仲間の退路をなぞるように動く。だから私は、逃げることをやめない。逃げ腰ではなく、誘導として。後ずさりしながら、わざと視線を切って、触手の主導権をこちらに持たせる。追いたいなら追わせる。その代わり、踏み込み先は選ばせない。 ゴブリンたちが私の合図に気づいたのか、左右へ散って別の通路へ滑り込んだ。私はそれを横目で確認し、胸の奥の恐怖を押し込める。大丈夫、まだ間に合う。あの細い動線さえずらせれば、完全に包囲される前に抜けられる。 触手の一本がすぐ目の前を裂くように通り過ぎた。私は思わず肩をすくめたが、顔だけは上げたままにする。怯えたふりを見せるほど、相手は前へ出る。予想通りだ。私はその勢いを利用して、壊れた台座の側へ誘い込む。崩れた石材の角に先端が絡み、ほんの一瞬だけ動きが鈍った。 その一瞬で十分だった。私は深く息を吸い、退路を確保した仲間たちの方向へ、もう一度だけ手を振る。こっちへ来るな、という合図ではない。ここは捨てる、今は逃がす、そういう覚悟を込めた動きだった。 触手の群れはなおうねり続けている。けれど、前室に満ちていた圧迫感の中心が、わずかにずれた。私はそのずれを見逃さないまま、次に自分がどう立つかを探し続けた。
異世界受付と開かずの金庫
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