エラベノベル堂

異世界受付と開かずの金庫

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8章 / 全10

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触手の群れがこちらを追いかけるたび、私はその動きの癖を目で拾った。速いものほど直線的で、遅いものほど周囲を探る。なら、全部を同じ場所へ誘い込めばいい。私は壊れた台座の陰から半歩だけ姿を見せ、すぐに引っ込む。見えた、と思わせるだけで十分だった。 ゴブリンたちは、私の合図を待つように息を殺している。私は振り返らず、地面に落ちた金属片を指先で弾いた。小さな音が、広間の冷えた空気に薄く広がる。触手の先端がそちらへ向いた瞬間、私は身を低くして反対側へ滑る。次の瞬間、別の先端が同じ場所へ突っ込んだ。一本ではなく、何本も同じ反応を重ねてくる。単純だが、勢いがある。だからこそ、外せば崩れる。 私は壊れかけた床板の継ぎ目を見た。そこだけ、石の表面が妙に浮いている。前に調べた時はただの古い傷だと思ったが、今なら違う。古い遺跡は、守るためだけでなく、落とすためにも作られている。私は喉の奥で息を止め、そこへ向けて何度も手を振った。こっちだ、と言う代わりに、あえて大きく、はっきりと。 触手の群れは一斉に反応した。視線もないのに、確かにこちらを見ている。先頭の一本が深く踏み込み、そのまま床板の上へ体重をかける。石の鳴る音がした。遅れて、地面がわずかに沈む。 来た。 私はその瞬間を逃さず、後ろへ跳んだ。床板の下から、古い仕掛けが目を覚ましたように鈍い音が走る。重い空気が一気に落ち、広間の中央に開いた穴へ向かって、触手の何本かが絡まるように吸い込まれていく。完全には沈まない。だが、動きは確かに乱れた。 ゴブリンの一体が小さく息を呑む気配がする。私は振り向かずに手を上げた。今は来るな、ではない。今だ、と示すための角度だ。彼らはそれだけで理解したらしく、左右からいっせいに石柱の陰へ身を寄せた。 触手の一本が、落下した先からなおも伸びようとする。私はそれを見て、逃げるのではなく、最後にもう一度だけ視線を引きつけた。舞台で照明を自分へ集めるみたいに、体の向きをわずかに変える。相手がこちらへ怒りを向けた、その刹那、穴の縁がもう一段きしんだ。 直接殴らなくても、勝てる。 その手応えは熱いほど鮮明だった。私は息を整え、落ちた先でなお暴れる触手を見下ろしながら、次の動きへ備えるように指を開いた。

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