教室の扉を開けた瞬間、空気が一度だけ止まった気がした。ざわつきの中に、章吾は見覚えのある背中を探す。だが先にこちらへ気づいた優斗が、目を丸くして椅子から半分立ち上がった。 「……お前、誰」 冗談めかした声なのに、そこに本気の驚きが混じっている。章吾は机の端を握り、できるだけ平静を装った。視線が一斉に集まるだけで、喉の奥がひりつく。 「朝倉だよ」 低く返したつもりが、耳に届いた自分の声はやけに柔らかい。優斗はさらに固まり、それから隣の一颯に肘で突かれて、ようやく現実を受け入れたように口を開けた。 「いや、無理だろ」 「無理じゃねえし」 そう言い返した途端、晴希まで振り向いて、目を輝かせたまま席を立つ。三人がそろうと、教室の騒がしさが一段増した。興味が顔に出すぎていて、逃げ道がない。 「本当に朝倉なのか確認させろよ」 「なんでそんなに声かわいいんだよ」 「歩き方まで違うんだけど」 次々に投げられる言葉に、章吾は額を押さえたくなった。悪意がないのは分かる。分かるからこそ、余計に面倒だった。距離を取ろうにも、三人は面白がる子どものように少しずつ詰め寄ってくる。 優斗が顔を近づけ、わざとらしく首をかしげる。 「おい、章吾。ちゃんといつもの顔、できる?」 「いつもの顔って何だよ」 「その反応、やっぱ本人だろ」 一颯が吹き出し、晴希が机を叩いて笑う。章吾は唇を結び、深く息を吸った。混乱したまま声を荒げれば、ますますおかしな空気になる気がした。だから、耐えるしかない。肩にかかった髪の感触がやけに気になって、無意識に指先がそれを払う。 その仕草まで見られていたらしく、三人の笑い声がさらに大きくなった。 「ほら、そういうとこ」 「もう完全に別人に見えるって」 「でも中身は章吾なんだろ、絶対」 章吾は机に視線を落としたまま、返す言葉を探した。否定しても肯定しても、今は全部からかわれる材料になる。胸の奥がざわつく。いつもの教室なのに、今日は自分だけが少しずつ狭い場所へ押し込まれていくようだった。優斗たちの興奮はしばらく収まりそうになく、章吾はただ、どうにかこの騒ぎに飲み込まれないよう、息を整え続けた。
朝になったら美少女
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